ゆっくり、話そうか。
一人だと思っていたのに助っ人がいるとなると本来ならテンションが上がる。
けれど今のやよいは上がらない。
別の人がよかっとまではいかないまでも、これなら一人の方がよかったと思ってしまう。
日下部にとっては過去のことですっかり忘れてしまった案件かもしれないが、やよいの気持ちはまだそこまで整理できていなかった。

「コピー?」

「へ?」

「それコピーの原本?」

がっつり掴まれている原本を指差し、

「あ、うん」

差されたやよいも頷いて答える。

「丸投げされたんだ?」

「多分、そう、やろうね」

「原本持ってくるって言っといて、あの教師…」

日下部の苦々しさから想像するに、やよいより先にコピーを頼まれここで待っていたようだ。
察するに、日下部には担任と二人でやる予定であることを最初に伝え、手伝い程度だと匂わせた後、原本忘れたから持ってくるわぁ的なことを言い残して消えたのだろう。

すちゃらかだ。
すちゃらか教師だ。

軽い雰囲気はあった、何かしら掴まされそうな、近付けばうっかりマンション購入契約書にサインさえさせられそうな危うさだってあった。
だが負けたのだ。
教師も色々ある、残業やら何やらでプライベートもそっちのけという巷の情報に、負けてしまったのだ。
完敗だった。

さすが教師。
頭ええ。

敵の策に称賛を送り、独りごちていたら、不意に目の前が暗くなった。

「やろうか、貸して?」

顔を上げると、手を差し出して原本を寄越せと要求している日下部。

ぐっ、
近いねんっ。
< 31 / 210 >

この作品をシェア

pagetop