ゆっくり、話そうか。
一通り目立つ場所に落ちてあるものを拾い、他にどこか入り込んでいないか確かめて、残り一枚が机の下に寝ているのを認めた日下部がもう一段階体を縮めて腕を伸ばした時、やよいも同じ場所のプリントへ身を乗り出しているのが見えた。
ぶつかることは脳が察知した。
避けようがなかった。
傾いていた体勢を逆の方へ持ち直す神がかった瞬発力もなく、だからと言って伸ばした手を引っ込めるにも遅すぎて、反射が辛うじて僅かに身を引こうとしたけれど足りるはずもない。

「…っ」

そのままやよいにぶつかり、ポニーテールで露になった首筋にほんのわずかに日下部の唇が触れた。
かすっただけ。
指先がぶつかるのと同じ、ただそれだけの接触。
だが触れた場所と触れたものがあまりに、あまりに───

これにはさすがの総司も焦りを隠せず飛び退いて、口元を覆い隠すように手の甲を当てた。
わざとではなくてもこれはスルーするわけにいかない。

「ごっ、ごめんっ」

何と言ってこの場をしのごうか、相応しいワードを考える日下部より早かったのはやよいの方だった。
もう一度ごめんと呟く。
真っ赤に顔を染めて、日下部の唇が触れた首筋に両手を当てて、変わらずまっすぐ視線をぶつけてくる。

「どうして君が謝るの」

緊張が解け、強張っていた体も緩んだ日下部が立ち上がり、順序もなにもなくなったプリントを正しく並べ直す。

気にすることはない。
事故だ。

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