ゆっくり、話そうか。
やばいっ、

目の前にはごろごろと散らばる石、石、石、岩。
このままでは転んで着地する場所はごつごつの超怪我ゾーン。
フラれた日に骨折もしくは怪我、スマホ紛失など断じて受け入れるわけにはいかない。
あまりにも、この先生きていく気力がわかない。
いや、少なくとも明日、明後日、一ヶ月、怪我が治るくらいは。
精一杯踏ん張って体勢を立て直そうとするが、無情にも完全に間に合わずそのまま怪我ゾーンへダイブした。

さよなら、とりあえずニキビもなく、七難隠すの肌やねぇと言われた肌。

諦めて目を閉じ、流れに身を任せようと覚悟した直後、突然腕が引かれて進行方向とは逆の方へ引っ張られた。

「っぶねぇ」

聞き覚えのありすぎる声、そして仄かな柔軟剤の甘い香りがやよいに届く。
目を開くとすぐ傍にはやよいを待ち構えていた石や岩、走り下りてきた草むらが見えた。
痛みを覚悟していた体が、そこから解放されて力が抜ける。
助かった…。
ほっとしたのもつかの間、視線をもう少し下げると自分と同じだが自分の物ではない制服の生地が飛び込んできた。
パニックに近い状態の脳みそでも容易に想像がつく。
背中に触れる暖かさ、自分の体をホールドしている腕、頭の後ろを支える大きな手。
間違いなく他人のもので、そして先ほどから心をくすぐるこの香りは…。
力が抜けてほどなく、別の緊張が間髪入れずに襲ってきた。

「なにしてんの」

呆れたように溜め息を吐き、登頂部に顎を乗せて気だるげに呟いたのは、先ほどやよいをフってほやほやの、日下部総司だった。
このタイミングでっ、なんでっ!
大きな振動で心臓が一つ跳ね、その後ばくばくばくと脈を打つ。
だが苛立ちは覚えてもまだ好きな気持ちが振り切れていないやよいにとってはショックの方が勝っていて、激しく騒ぐ心臓と血の気が引いていく二つの感覚に襲われた。
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