ゆっくり、話そうか。
日下部が、あの日下部総司が、今、自分の体をすっぽりと抱きしめ(?)ている、抱きしめて(?)、いる………?
私フラれた直後に、自分をフッた相手に抱きしめ?ハグ?されてる?

「ちょーーっ、なんっ、なんでっ、いつまでっ…」

言葉にならずあわあわし、身をよじって日下部の腕からすり抜けた。
暖かった体温が、外気に触れて急激に冷やされる。

「あぁ、つい。サイズ的に顎乗せやすくて」

サイズ的、やと??

たしかに大きくはないが、そんな軽くつむじに顎を乗せる程度のサイズでもない。
顎の刺さっていた辺りに両手を当て、ある程度の感覚を空けて日下部と向き直った。
目を逸らすでも逃げるでもなく、あからさまに避けるわけでもなく見据えてくるやよいに驚いた日下部が少し目を見開いた。

「こんなとこダッシュして、何しようとしてたの?」

片ひざを立てた上に腕を乗せ、こんなとこのあたりを指でくるくる指し示す。
一度口を開いて止め、聞かれたことの答えを標準語に近いイントネーションで探す。
ウケると言われてしまったので反射的に脳が働いたのだが、考えてるうちにそんな必要全くないことに気づき、モヤモヤの中に浮かびかけていた標準語のそれをかき消した。

「あー、スマホが飛んでったんで拾おうと思たら、加速がすごくて、止まらんかって」

で、さっきの騒動に至る。

「なんか、ごめん、迷惑かけました。おかげで怪我もなく助かりましたありがとう」

ペコリと頭を下げる。
緩いポニーテールが揺れた。

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