ゆっくり、話そうか。
学校の女性陣は少しでも汗をかくだけで化粧を気にしているのに、こんなに濡れてもなにも気にしていないのだから。
それにいつも科学的な色とは無縁の自然だ。
周りの女性陣とは違いすぎる自然体で、どこか一緒のところと言えばお揃いの制服くらい。
今も揃いの…、とそこまで観察して改めてやよいを見てぎょっとする。
大量の雨水を被ったやよいの体操服は透けて、中のインナーが浮き出ていた。
下着ではないけれど、それよりかえって目のやり場に困る。
本人が意識していないのが逆に罪深い。

手のかかる。

自分のバックパックから上の長袖を取り出した日下部がそのままやよいに被せた。

「大丈夫。虫は付いてなかった。よかったね」

「え、なに…」

雨水の次に服が降ってきて困惑したやよいが、着ぐるみ状態で日下部を見つめている。

「寒そうだし、体冷えるでしょ」

「でも日下部くんも濡れてるし」

「俺は大丈夫、暑がりだから」

嘘。

本当は寒がり。
けれど、あんな格好で傍にいられるより寒いのを我慢する方がずっとよかった。
最近はずっと妙な気分だ。
告白された相手との時間が多すぎるし、断った相手とこんなに会話することもなかったのにやたら関わることが多くなっている。
しかも関わることは嫌ではなくて、楽しいとさえ感じていて。

なんならもっとやよいを知りたいとさえ思っては、もやっとしたものを追い払えないでいた。
あんなことを言ったのに。
こんなこ難しく、守備範囲の案件をはっきりしないモヤモヤの対象のいる場所で突き詰めるのは得策ではない。
今はとりあえず奥へ引っ込めることにした。

「ごめんね、ありがとう」

長袖の上着は部屋へ置いてきてしまっているため、この申し出は確かにありがたかった。
素直にお礼を言い、「洗って返すから」と腕を通した。

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