ゆっくり、話そうか。
ふんわり、日下部の香りがする。
いつも近付くたびに漂っていた香りを自分もまとっている事が恥ずかしくもあり、悲しくもあった。
サイズはぶかぶかで、折り曲げないと袖から手が出せない。
裾も長く、ザ彼ジャージといったサイズ。
これが付き合ってる相手なら…と、どうしても考えてしまう。
叶わない恋がじわじわ攻撃を受けているようだった。

「あっ、お礼にこれ、食べる?」

自分のバックパックからおやつには入らないバナナを取り出し、日下部に差し出す。

「え、ほんとに持ってきてたの?」

「持ってくるよ」

当たり前やんとばかりにバナナを剥き始めた。
先程と同じ場所に戻り、もくもくバナナを食べ始める。
バナナの甘い香りに誘われた日下部も皮をむき、大きめの一口で頬張った。

「そういえば、なんの話してたっけ?」

一騒動あって(といってもやよいだけ)さっきまでムカムカしていた気持ちはすっかり消え失せていた。
今さら蒸し返して文句を付ける気にもなれない。
どうせなら楽しい話しになればと別の話題を振ってみた。

「俺の何に惹かれて好きになったのか」

返ってきたのはデリカシーのないもの。

「なっ、やっ、そんな話ししてへんし」

口にバナナが残っていたら吹き出していた。

何を言うんやこいつは。
本気か!?


< 66 / 210 >

この作品をシェア

pagetop