ゆっくり、話そうか。
「いいじゃん。聞かせてよ」

「嫌や。趣味悪いで自分」

なんでそんなん話さなあかんの。
一番触れたくない話題や。

「俺知ってるよ。顔でしょ?」

自信満々に断言され、不本意なやよいが弾かれたように振り返る。

「はっ!?違うよ!」

「違うの?いつも俺の顔が男前だって叫んでるからてっきり」

またほじくり返された。
うっかりいつも口にしてしまっていることがこんなに自分の足を引っ張るとは。
日下部がしつこく訊いてくるのは、顔で選ばれることに幾分か傷付いているからだろうか。
再三聞かれている“男前”発言に対しては謝罪すべきか、しかし日下部が嫌な思いをしているかどうかも分からないのに謝るのもどうなんだろう。

「わ、私そんないっつも言うてる?」

「言ってるね」

「傷付いてる?」

「いや?別に」

あ、傷付いてるわけやないんか。
ならよかった。

傷付いていたらどうしようかと思っていたので、一つでも問題が減ってホッとした。

「さっきも言ってたよ」

「うそっ、聞こえてた!?」

確かに言った。叫んだ。
しかしここまで聞こえるほどの声ではなかった自覚があったため、衝撃である。

「やっぱ言ってたんだ」

聞こえてなかったんかーいっ!

「感じ悪…」

「でも結構言われたから顔で選んだのかと思ってた。他の子達とおんなじで」

「違うよっ!!」

他の女の子と一緒にされたことが癪で、思わず口調が荒くなる。
また樹の幹を揺すりそうになるのを寸でで止めて、「違う」と繰り返す。

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