ゆっくり、話そうか。
そして激しく叩き付けていた雨がしとしとになり、やよいの声がよく通るようになった頃、今さらながらに羞恥心がおそってくる。


私は一体今、何をしてるんやろうか。

いつかのデジャヴ。
フラれた日に一緒にスマホを探した事が思い返される。

何が嬉しくて恋心の最初を恋心の対象者に打ち明けなければならないのか。
いくら顔で選んだのではないことを立証するためだとはいっても、こんな仕打ちをこんなびしょびしょのなかで受けなければならない状況に納得がいかない。
けれど、顔で選んだ過去の存在が発覚し、それと同じだと思われるのも嫌だった。
というより、他の女子と比べられたのが我慢ならなかった。

だから話した。
恋の始まり、自分しか知らない僅かな鼓動の一番最初を、思いを寄せている相手に告白と同じ感覚でぽつりぽつりつまりながら日下部に伝えた。

「あれ見られてたんだ」

「スイマセン」

「いいよ、わざとだったらストーカーみたいで怖いけど」

もう笑うしかなかった。
ストーカーではないしたまたま通りかかっただけだけど、盗み聞きしていたのは間違いないわけで。
しかも二人には気づかれないようこっそりしていたのだから、見ようによってはストーカーだ。

「もし園村さんが言ってた、辛辣で人の気持ちが分かりにくい今の俺をその時も知っていたら、君は俺の事好きにはなっていなかった?」

自分で言ってて恥ずかしい。
しかしどういうわけか訊かずにはいられなかった。
どうしても訊きたかった。
止められなかった。
やよいが今の自分をどう見て感じているのか…。
やはり直視できず、やよいの瞳を逸らそうと俯く。

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