ゆっくり、話そうか。
モテる人はこんな気分をいつも味わえるんだなぁ、と羨ましく思ったり。
日下部もきっとこんな気持ちななるのだろうと想像してみたけれど、彼の喜んでいる姿が不自然すぎてうまく行かない。

でも私、はっきり言いすぎたやろか。

告白を断るための誠意だったとは言え、あんなに可能性がないことを強調しなくてもよかったんじゃないかと思い始めていた。
出来るだけ傷が浅く済むように自分の気持ちを伝えたが、果たして正解だっただろうか。
どれが正解なんて無いだろうけれど、自分がフラれた時のような気持ちは与えたくない。
スマートにこなしていた日下部を思いだし、少し憎らしくなってしまった。

複雑な思いが交錯するのは恋愛だからか。
そんな事を考えながら広場の方へ顔を向けると、

「あ…」

目線の先、そう遠くないところに日下部が木にもたれて立っているのが見えた。
向こうもやよいに気付き、こちらを向いている。
一人のようだ。
女子の群れはどこにも見えない。

「花火始まるぞー!!」

キャンプファイアのフィナーレ、花火大会が始まるとのアナウンスに合わせて、大きな歓声をあげた生徒達が一斉に集まっていく。
ぱらぱら、波に乗り遅れた生徒の数人が日下部とやよいの間を縫って駆けていった。
全ての生徒が同じ場所に集合したのにやよいは動けずにいて、日下部もまたそこで立ったまま。

ヒュン───

家庭用よりも豪華で、本格的なものよりは劣るが学校の行事としては最高クラスの打ち上げ花火が、空へ打ち上げられる。
空で弾け、ぱらぱら降ってくるのが視界の端に映っても、やよいは目を逸らせないでいた。
日下部もまた同じで、やよいに視線を向けていた。

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