ゆっくり、話そうか。
一緒に観る?

そう言えばよかったのか。
けれど、一緒に花火を観るよりも日下部を見ていたかった。
日下部がこちらを向いているから、目を逸らしたくなかった。

花火なんてどうでもよかった。

ほんの短い時間の花火大会。
二人はその間ずっと、視線を絡ませていた。

「やよいぃぃぃぃっ、もうっ、どこ行ってたのよー!」

花火が終わり、日下部が友達に連行され、金縛りが解けたように力が抜けたタイミングで、お怒りモードの万智が走りよってきた。

あ、まずい、どこも行かんて言うたな、そういえば。

万智と別れた場所、もしくは万智が戻ってきてもすぐ目につく場所にいようと思っていたのに、うっかりしていた。
昼間の一件もあったこともあり、万智の警戒心も高い。

「ごめん、喉乾いてて」

「せっかく花火一緒にやろうと思ってたのにぃ」

唇を尖らせて睨んでくる。
怖さは皆無、可愛さしかない。
これでやよいより背が低ければ上目使いとなってさらに破壊力が増しただろう。

くっ、可愛いっ。
なるほど、叱られているのに嬉しげなのはこういうことか。

こんな顔して叱られても、彼女ラブの尚太には逆効果なわけである。

「でもこれ、はい。お土産。くすねてきちゃった」

生徒用に準備された手持ち花火をやよいに渡した。
見慣れたフォルムの線香花火が袋に二本入っている。

「火がないからここでは無理だけど」

限られた量しかなく、毎年はしゃいだグループが遠慮無く取り込むため一人に一つ回ってこないこともある手持ち花火。

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