ゆっくり、話そうか。
場所を確認した日下部が先に向かい、その後気乗りしないやよいが続いた。
そうして、二人でスマホを探すことになったのだが…。
私は今、何をやってんのやろ。
二人で草むらを掻き分け、無言でスマホを探す今の状況を消化しきれないやよいがふと手を止めた。
最初はよかった。
早くスマホを探し出せばこの気まずさから逃げられると思って探していたのだが、未だ見つからずただ時間だけが過ぎていくという過酷さの中での捜索は想像よりきつい。
友達なら何だかんだと喋りながらジョークも飛ばしつつ気が紛れることもあるけれど、相手は友達でもなんでもない、ただの失恋相手。
そんな相手が一緒にスマホを探しているとは、どういう状況だろうか。
まるで告白劇なんかが無かったかのような。
ただぼんやりと、真面目に捜索している日下部を見つめる。
そして思う。
フラれた後でよかった、と。
こんなの期待してしまう。
好きでもない相手のスマホ捜索なんて普通はしない。
もしかして少しは自分に気があるのではないか、と、考えずにはいられなかっただろう。
けれど、日下部の意図と真意がどの言葉にあるのかは知らないが、そこに恋愛感情は微塵も含まれていないことも同時に思い知らされる。
やはり、吹っ切るのにはまだまだ時間がかかりそうだ。
涙が薄い膜を張り始めたあたりで日下部から少し目を逸らし、先ほどよりも暗くなってしまった周りを見渡す。
川のせせらぎが大きく聞こえる気がするのは、見えない分を補うためだろうか。
春と初夏の間で冷まされた風に、いつのまにか滲んでいた汗を拭われる。
ポニーテールの先が口元に当たり、頬に引っ付く。
それを人差し指で外すと、もう一度日下部に目をやった。
すると、日下部もこちらを見ていて目が合う。
やよいが萎ませなければならない恋心を弾ませるのとは反対に、意地悪なカーブを描いて日下部の広角が上がった。
「ちなみに、関西弁は母国語じゃないから」
腰を伸ばしながら軽く体を揺すった日下部が、ふッと笑う。
その仕草にまた胸が締め付けられたものの、またもや関西弁アンチの挑戦状を投げて寄越されたやよいが唇を尖らせた。
「母国語や」
「日本語が母国語だから」
わりと、というか、結構嫌な言い方をする奴だと、日下部の人物像が上書きされた。
けれど、友達でもなんでもない通りすがりの相手に優しい一面を見せてくれる人であることも隣に添えられた。
たとえそれが、自分の評価のためだとしても。
「あのさぁ、ほんとにこの辺?」
「やと思うんやけど、ごめん…」
もはや自信は底辺だ。
探し始めてもうどれくらい経っただろうか。
薄暗いからすっかり暗いに変わってしまう分の時間は費やしている。
非常にマズイ。
自分で探すのでさえいい加減苛々してなにかに当たり散らしたくなるほどなのに、無関係の者がこの立場にぶち当たってしまったら心境はいかがなものだろうか。
自分だったらどうだろうかと考える。
いや、そんな腹立てへんな。
軽く考えてみて、見つからなかったとしても自分に害はないとして落ち着いている姿と、何がなんでも探してやると躍起になっている鬼夜叉バージョンが濃厚だった。
どちらにしても人に知られたくない自分の姿にげんなりしてしまった。
「あー、もう、くっそー…。すごい気乗りしないんだけど…しかたないかぁ…」
草むらに置いたバックパッに戻った日下部が中からスマホを取り出し、腰に手を当ててなにやら操作している。
後ろ姿だけで分かる、全く、絶対、これだけは避けたかった、というオーラ。
そうして、二人でスマホを探すことになったのだが…。
私は今、何をやってんのやろ。
二人で草むらを掻き分け、無言でスマホを探す今の状況を消化しきれないやよいがふと手を止めた。
最初はよかった。
早くスマホを探し出せばこの気まずさから逃げられると思って探していたのだが、未だ見つからずただ時間だけが過ぎていくという過酷さの中での捜索は想像よりきつい。
友達なら何だかんだと喋りながらジョークも飛ばしつつ気が紛れることもあるけれど、相手は友達でもなんでもない、ただの失恋相手。
そんな相手が一緒にスマホを探しているとは、どういう状況だろうか。
まるで告白劇なんかが無かったかのような。
ただぼんやりと、真面目に捜索している日下部を見つめる。
そして思う。
フラれた後でよかった、と。
こんなの期待してしまう。
好きでもない相手のスマホ捜索なんて普通はしない。
もしかして少しは自分に気があるのではないか、と、考えずにはいられなかっただろう。
けれど、日下部の意図と真意がどの言葉にあるのかは知らないが、そこに恋愛感情は微塵も含まれていないことも同時に思い知らされる。
やはり、吹っ切るのにはまだまだ時間がかかりそうだ。
涙が薄い膜を張り始めたあたりで日下部から少し目を逸らし、先ほどよりも暗くなってしまった周りを見渡す。
川のせせらぎが大きく聞こえる気がするのは、見えない分を補うためだろうか。
春と初夏の間で冷まされた風に、いつのまにか滲んでいた汗を拭われる。
ポニーテールの先が口元に当たり、頬に引っ付く。
それを人差し指で外すと、もう一度日下部に目をやった。
すると、日下部もこちらを見ていて目が合う。
やよいが萎ませなければならない恋心を弾ませるのとは反対に、意地悪なカーブを描いて日下部の広角が上がった。
「ちなみに、関西弁は母国語じゃないから」
腰を伸ばしながら軽く体を揺すった日下部が、ふッと笑う。
その仕草にまた胸が締め付けられたものの、またもや関西弁アンチの挑戦状を投げて寄越されたやよいが唇を尖らせた。
「母国語や」
「日本語が母国語だから」
わりと、というか、結構嫌な言い方をする奴だと、日下部の人物像が上書きされた。
けれど、友達でもなんでもない通りすがりの相手に優しい一面を見せてくれる人であることも隣に添えられた。
たとえそれが、自分の評価のためだとしても。
「あのさぁ、ほんとにこの辺?」
「やと思うんやけど、ごめん…」
もはや自信は底辺だ。
探し始めてもうどれくらい経っただろうか。
薄暗いからすっかり暗いに変わってしまう分の時間は費やしている。
非常にマズイ。
自分で探すのでさえいい加減苛々してなにかに当たり散らしたくなるほどなのに、無関係の者がこの立場にぶち当たってしまったら心境はいかがなものだろうか。
自分だったらどうだろうかと考える。
いや、そんな腹立てへんな。
軽く考えてみて、見つからなかったとしても自分に害はないとして落ち着いている姿と、何がなんでも探してやると躍起になっている鬼夜叉バージョンが濃厚だった。
どちらにしても人に知られたくない自分の姿にげんなりしてしまった。
「あー、もう、くっそー…。すごい気乗りしないんだけど…しかたないかぁ…」
草むらに置いたバックパッに戻った日下部が中からスマホを取り出し、腰に手を当ててなにやら操作している。
後ろ姿だけで分かる、全く、絶対、これだけは避けたかった、というオーラ。