ゆっくり、話そうか。
見られたんかっ。

先ほど告白をしてくれた横山が思い返される。
だが気分がいいとは少し違う。
そんなマウントは感じない。
暖かさを感じても気分いいと表現する部類の気持ちは、微塵もなかった。
そして告白されることに悦を感じていたような発言をする日下部が、少し悲しい。

やよいのぐるぐる回る感情を知っての事か、日下部の表情がどんどん意地悪く変化する。

「それにもう消したって言ってたし」

何故かやよいを困らせてやりたくて、過去に向けられた台詞を揶揄した日下部が意地悪な笑みを向ける。

「そりゃっ、あんなん、言うよ、届かんて分かってるのにバカみたいに自分の気持ちさらしたりせんよ。なんっ、それが今したことの言い分なん!?最低やで!?そっちは飽きるほどかもしれんけどこっちは初めてやったのに!!」

「こっちだって、初めてだよ」

「え、初めて…?」

やよいの涙が一旦引っ込む。
頭がこんがらがってきた。
でも彼女おったやん。
いやっ、そんなんどうでもええわ。
初めてとか言われて逆上すんな!私!

またもうまく丸め込まれる前に自分の弱虫を叱咤する。

「なっ、知らんよそんなんっ!開き直んな!信じられへんっ、あんたほんまに最低や!頭いいくせに頭悪いんか!あほっ、ボケ!キス魔!」

「キス魔って。初めてだって言ってるのに、すごい言われようだね」

「まんまやもんっ。してええなんか言うてへんのにっ」

「聞けばよかったの?園村さんにキスしたいって」

近いしそんな問題ちゃうし。
勝ち誇った顔で見るな。

常に自分主導で余裕綽々な日下部とは対照的な、余裕の無い自分が全てにおいて未熟だと痛感させられる。
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