ゆっくり、話そうか。
#5 おあいこと影送り
キャンプが終わってからこちら、季節はもうすっかり夏になっていた。
期末試験を攻略すれば、楽しい楽しい夏休みの到来である。
やよいにとっては早く来てほしいような、そうでもないような…。
日下部と毎日会えなくなるのは淋しいが、今はその方か自分にとっていいような気がしている。

抑えきれないのだ。

おはよー、好きやでー。

と言ってしまいそうになる。

キャンプでキスをした夜、疲れと衝撃と言葉にできない胸の痛みに耐えきれず倒れてしまったやよいは、もう日下部から抜け出せなくなっていた。
誰が運んでくれたのか、おそらく日下部だと思われるが、医務室で目が覚めたときは朝になっていて額にはタオルが乗せられていた。
泣いたからか目元も頭も少し痛くて、様子を見に来た担任には「目もとが腫れて不細工」と笑われる始末。
そのあと飛び込んできた万智は半泣きで、やよいが枕元に置いた‘外に出てる’のメモを読んで熊にでも教われたのだと思ったらしい。
あんなメモを残したせいで余計な心配をかけてしまったと反省。

体調を気づかってその日のグループ活動は休めと言われたが、無理を言って見学させてもらうことにした。
逃げたくなかったから。
それより何より、日下部がどんな顔して自分と顔を合わせるのか早く確かめたかったから。

だが日下部はいつも通りなにも変わらず、顔を見ても「おはよう」だけ。
やはり日下部にとってあれは何かの気の迷いか面白半分だったのだなと、深夜枠で男は狼になるというやつだったのだと結論付けた。

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