ゆっくり、話そうか。
自分の彼女が可愛いのは分かるが、なんで見ねぇんだよは違うだろと、やよいは内心でつっこんだ。

「ごめぇん、尚ちゃん。で?どしたの?なにか用?」

「せんせーがなんか呼んでる。数学のノートが万智の分がないって言ってた」

「えーっ、出したのになぁ」

4時限目に回収したノートのことだろう。
いつもきっちり提出する万智は、納得いかなさそうに膨れている。
数学の教師は抜けどころも目立つので何かの間違いの可能性が高いが、呼ばれたとなれば出頭しなければならない。

「ごめんね、やよい、ちょっと行ってくる」

「わかったぁ。また戻ってこれたらおいでなぁ」

正座をしたままで万智に手を振り、まだまだ説教したり無い尚太と歩いていく姿を見送った。
日下部は一緒には行かないようで、その場で二人を見送っている。
突然の日下部との二人きりに、一瞬でやよいの心拍数が上がった。
あれから二人きりは初めてだ。
意識が自然とマックス状態になる。

「涼しいね、ここ」

壁にもたれた日下部が頭をもたせかけ、だらんと力を抜いて目を瞑った。
風が髪を撫で、ニキビ跡もほとんど無い額を露にさせる。
そんなふうにリラックスしている姿は珍しく、なかなかお目にかかれるものではないのでしっかり頭のメモリに焼き付けた。

「昼寝するにはもってこいやねん」

「こんなところがあるなんて知らなかったよ。俺普段規律は守るから」

「う…っ」

軽くイヤミを言われて言葉につまる。

「さっきみたいにゆっくりしたら?」

「あんな体たらくはちょっと、さすがにお見せできやん」

「もう見たけどね」

言わなきゃあよかった。
恥の上塗りや。

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