年下カレが眼鏡を外す時
3 年下カレが甘える時
「せっかくの壮真君の誕生日なのに会えないなんて!」
私がぷりぷりと怒り始めると、カレはそんな私をなだめた。年上なのは私なのに、私がワガママを言い出すことが多い。壮真君はそんな私を落ち着かせてくれる。
今年の壮真君の誕生日は平日。私はもちろん仕事だし、壮真君はその日は対局がある。その後は互いに週末に仕事があって、次にカレに会えるのは2週間後だった。そんなに日が空いてしまったら、誕生日の新鮮さがなくなってしまうような気がしてとても残念。そう思っているのは私だけではないらしく、壮真君もしょんぼりと肩を落としているように見えた。その姿が何だか切なくて、私は身を乗り出す。
「誕生日の日、絶対メッセージ送るから! それに、できる事なら何でもするよ!」
「何でも?」
私の言葉に壮真君が目を輝かせた。あ、これはもしかしたら言ってはいけないことを言ってしまったかもしれない。でも言い出した手前撤回することも出来ない、私は覚悟を決める。しかし、彼の『ワガママ』はとても可愛らしいものだった。
「それなら、お弁当を作って欲しい、です」
「へ?」
私は何度も聞き返すけれど、カレの答えは変わらない。お弁当一択だった。
対局の日は、大体将棋会館に来る出前を注文している。これは私もカレの対局を見るようになって知った事だった。でも、最近マンネリを感じているらしい。他の棋士の中にはコンビニで買ってくる人もいれば、愛妻弁当なんて人もいて、壮真君はそれに憧れたみたい。でも、お弁当なんて作ったことないし……そう断ろうとしたら、脳裏によぎるのはしょんぼりと肩を落とす壮真君の姿。それを見るのは心苦しくて、私はむりやり胸を張った。
「いいよ! お弁当箱探しに行こう!」
私は壮真君の手を取る。壮真君は嬉しそうに笑って、一緒に雑貨屋でお弁当を探す。壮真君が気に入ったそれを、私は「誕生日プレゼントだから」と財布を出して、そのまま家に持ち帰った。
「どうしよう……」
自炊をしたことはあるけれど普段はコンビニで三食を賄うことが多い私、お弁当なんて一度も作ったことはない。ネットでレシピを探してみても、凝った料理が多くて初心者が手を出したところで失敗することが目に見えている。私はまた「どうしよう」と一人で呟いていた。今から断る訳にも行かないし……悩みに悩んだ末、私が導き出した答えは一つだった。
「あんた、お父さんのお弁当も作ったことないのに彼氏の弁当だなんて……」
「だっておねだりされたんだもん! 仕方ないでしょ!」
壮真君の誕生日前日、私は実家に帰っていた。ここから出勤しても大して時間は変わらないし、それに、当日の朝に待ち合わせしている将棋会館のある駅まで乗り換えなしで行くことができる。そして何より、長年料理を作り続けてきたお母さんのアドバイスをもらうことも出来る! お母さんは始めは呆れていたけれど、何だか嬉しそうだった。きっと私の交際が順調であることが喜ばしいのだと思う。
「彼氏にお弁当作るのはいいけれど、こんなものばっかりで……地味すぎない?」
「だって! こういうのしかできないんだもん!」
用意したのは鮭の塩焼き、から揚げ、卵焼き、ほうれん草の胡麻和えにきんぴらごぼう。失敗しないようにと選んだ無難なラインナップが並ぶと……本当にすごく地味だった。けれど、大事なのは見栄えじゃなくて気持ちだから! と私は出来上がったおかずをお弁当箱に詰めていく。ご飯だけは明日の朝炊いたものを詰める予定だった。
「この余ってるやつ、お父さんのお弁当に使ってもいい?」
「うん、いいよ」
お母さんはその前に味見をする。何度か頷いて「悪くない」と評価した。壮真君は何て言ってくれるかな、私の頭にはそんなほわほわとした春みたいな想像が広がっていった。
私がぷりぷりと怒り始めると、カレはそんな私をなだめた。年上なのは私なのに、私がワガママを言い出すことが多い。壮真君はそんな私を落ち着かせてくれる。
今年の壮真君の誕生日は平日。私はもちろん仕事だし、壮真君はその日は対局がある。その後は互いに週末に仕事があって、次にカレに会えるのは2週間後だった。そんなに日が空いてしまったら、誕生日の新鮮さがなくなってしまうような気がしてとても残念。そう思っているのは私だけではないらしく、壮真君もしょんぼりと肩を落としているように見えた。その姿が何だか切なくて、私は身を乗り出す。
「誕生日の日、絶対メッセージ送るから! それに、できる事なら何でもするよ!」
「何でも?」
私の言葉に壮真君が目を輝かせた。あ、これはもしかしたら言ってはいけないことを言ってしまったかもしれない。でも言い出した手前撤回することも出来ない、私は覚悟を決める。しかし、彼の『ワガママ』はとても可愛らしいものだった。
「それなら、お弁当を作って欲しい、です」
「へ?」
私は何度も聞き返すけれど、カレの答えは変わらない。お弁当一択だった。
対局の日は、大体将棋会館に来る出前を注文している。これは私もカレの対局を見るようになって知った事だった。でも、最近マンネリを感じているらしい。他の棋士の中にはコンビニで買ってくる人もいれば、愛妻弁当なんて人もいて、壮真君はそれに憧れたみたい。でも、お弁当なんて作ったことないし……そう断ろうとしたら、脳裏によぎるのはしょんぼりと肩を落とす壮真君の姿。それを見るのは心苦しくて、私はむりやり胸を張った。
「いいよ! お弁当箱探しに行こう!」
私は壮真君の手を取る。壮真君は嬉しそうに笑って、一緒に雑貨屋でお弁当を探す。壮真君が気に入ったそれを、私は「誕生日プレゼントだから」と財布を出して、そのまま家に持ち帰った。
「どうしよう……」
自炊をしたことはあるけれど普段はコンビニで三食を賄うことが多い私、お弁当なんて一度も作ったことはない。ネットでレシピを探してみても、凝った料理が多くて初心者が手を出したところで失敗することが目に見えている。私はまた「どうしよう」と一人で呟いていた。今から断る訳にも行かないし……悩みに悩んだ末、私が導き出した答えは一つだった。
「あんた、お父さんのお弁当も作ったことないのに彼氏の弁当だなんて……」
「だっておねだりされたんだもん! 仕方ないでしょ!」
壮真君の誕生日前日、私は実家に帰っていた。ここから出勤しても大して時間は変わらないし、それに、当日の朝に待ち合わせしている将棋会館のある駅まで乗り換えなしで行くことができる。そして何より、長年料理を作り続けてきたお母さんのアドバイスをもらうことも出来る! お母さんは始めは呆れていたけれど、何だか嬉しそうだった。きっと私の交際が順調であることが喜ばしいのだと思う。
「彼氏にお弁当作るのはいいけれど、こんなものばっかりで……地味すぎない?」
「だって! こういうのしかできないんだもん!」
用意したのは鮭の塩焼き、から揚げ、卵焼き、ほうれん草の胡麻和えにきんぴらごぼう。失敗しないようにと選んだ無難なラインナップが並ぶと……本当にすごく地味だった。けれど、大事なのは見栄えじゃなくて気持ちだから! と私は出来上がったおかずをお弁当箱に詰めていく。ご飯だけは明日の朝炊いたものを詰める予定だった。
「この余ってるやつ、お父さんのお弁当に使ってもいい?」
「うん、いいよ」
お母さんはその前に味見をする。何度か頷いて「悪くない」と評価した。壮真君は何て言ってくれるかな、私の頭にはそんなほわほわとした春みたいな想像が広がっていった。