年下カレが眼鏡を外す時
対局室には待ち構えていた記者の人たちが詰めかけて行っていた。壮真君は簡単な取材に答えていた。私はごろりとモニター側に向かって寝返りを打つ。緊張から解き放たれた彼の表情は、とても晴れ晴れしているように見える。
『そういえば、最近、眼鏡外すのやめたんですね』
記者の一人がそんな事を壮真君に聞き始めた。そう、あのプロポーズの日以来、カレは約束を忠実に守ってくれている。カレのルーティーンが崩れたら良くない方向へ転がってしまうんじゃないかと不安になったこともあったけれど、その心配とは裏腹に、カレはいい方向へ突き進んでいった。
『あぁ……彼女、いや、奥さんになる人が「他の人の前で素顔見せないで」って言うので、やめたんです』
壮真君は私が大好きな柔らかな笑顔で、そう答えた。私の体は固まり、次の瞬間にはピシッとヒビが入る音が聞こえてきたような気がする。私は震える手で、恐る恐るSNSの確認をした。ハッシュタグで検索すると、初めは壮真君のタイトル挑戦を祝うものばかりだったのに……。
「……こうなるよね」
唐突なノロケと結婚宣言。その晩はずっと壮真君のダブルの祝福の嵐は吹き続けることになるなんて、カレは知らないまま過ごすに違いない。
「まあ、いっか」
そのエールも、私も受け取っていた。見守ることと送り出すことしかできないけれど、私はカレを支えていく。そしていつの日か、誰にも負けない大名人になってくれる日を夢見て――私は高鳴る胸を抑えながら、カレになんて言ってお祝いしようか悩み始めていた。