年下カレが眼鏡を外す時
2 年下カレと出会った時
私と壮真君が出会って付き合い始めたのは、今から一年くらい前の出来事――。
「おじいちゃーん! またフラれちゃったよぉ!!」
「亜美、またか。だからってわざわざうちに来て愚痴るのはやめなさい」
「だって、もう友達も私の話を聞いてくれないんだもん!」
人生何度目か分からない失恋。友達も同僚も、初めの頃は心配してくれたけれど、時機に「いつもの事なんだからいちいち騒がないの」なんて言って聞き流すようになってしまった。だから私は、近所に住む仲良しのおじいちゃんとおばあちゃんに話を聞いてもらうしかない。
「今度はどうしたの?」
おばあちゃんがお茶を出してくれる。私は湯呑を手で包み込み、ぐずぐずと鼻を鳴らした。
「う、浮気された……」
「あら、また?」
「おばあちゃんまで!」
そう。私がフラれてしまう原因の第一位は「浮気される」ことだった。最短で、付き合って一週間で浮気されたこともあるくらい。彼氏に浮気されてしまう星の元で生まれてきてしまったに違いないと思うくらい。中学生の時に初めての彼氏ができてから、ずっとこんな人生。だから、結婚なんて夢のまた夢。一生手が届かないんじゃないかって思う事すらある。
「もっと真面目な人と付き合えばいいじゃない」
「真面目に見えたんだよぉ……」
おばあちゃんがお煎餅を差し出すので、私はそれを手に取った。それを元彼だと思って、力の限りかみ砕いていく。おばあちゃんは呆れるように私を見ていた。
「真面目と言えば……」
私がぐずぐずと愚痴を言っていると、おじいちゃんが何かを思い出したように声をあげた。私は「どうしたの?」と聞き返す。
「いや、知り合いがな、自分の弟子にもそろそろ身を固める相手が欲しいとか言っていたのを思い出したんだが……亜美、会ってみるか?」
「えっ?」
「直接会ったことはないが、とても真面目な若者だよ」
「う、うん! 会う! 会いたい!」
思わぬところに出会いが転がっていた! 私は大きく頷く。
「でも、弟子ってなんの?」
「将棋だよ。ほら、行くぞ」
「え、今!? ちょっと待ってて!」
私は慌てて崩れたメイクを直し、服に皺がないかチェックする。前の前の前の彼氏の趣味だったフェミニンなワンピースを着てきて良かった。
「いってきます!」
「はい、いってらっしゃい」
おじいちゃんをめいいっぱい待たせて、私が玄関でパンプスを履いた。おばあちゃんにそう呼びかけると、今から面倒くさそうな声が聞こえてきた。孫娘の一大事なのに。
「おじいちゃん、将棋なんてやってたの?」
道中、私は気になっていた事を聞いた。おじいちゃんは「亜美、知らなかったのか?」とちょっとげんなりしていた。
「うちに将棋盤あっただろう?」
「それは知ってるけど、てっきりインテリア的なものだと思っていたから」
今も現役で使っているとは1ミリも知らなかった。私はおじいちゃんについていく、歩いて15分ほど経った頃、ようやっとおじいちゃんは足を止めた。目の前には少し古ぼけたビル。看板には【葉山将棋クラブ】と書いてあった。おじいちゃんと一緒にエレベーターに乗り、その将棋クラブのドアの前に立った。じわじわと緊張が体を包み込む。私が喉を鳴らすのと同時に、おじいちゃんはドアノブに手をかけて――。
「あれ、渡瀬さんじゃない?」
「おぉ! 立花さん!」
「おじいちゃーん! またフラれちゃったよぉ!!」
「亜美、またか。だからってわざわざうちに来て愚痴るのはやめなさい」
「だって、もう友達も私の話を聞いてくれないんだもん!」
人生何度目か分からない失恋。友達も同僚も、初めの頃は心配してくれたけれど、時機に「いつもの事なんだからいちいち騒がないの」なんて言って聞き流すようになってしまった。だから私は、近所に住む仲良しのおじいちゃんとおばあちゃんに話を聞いてもらうしかない。
「今度はどうしたの?」
おばあちゃんがお茶を出してくれる。私は湯呑を手で包み込み、ぐずぐずと鼻を鳴らした。
「う、浮気された……」
「あら、また?」
「おばあちゃんまで!」
そう。私がフラれてしまう原因の第一位は「浮気される」ことだった。最短で、付き合って一週間で浮気されたこともあるくらい。彼氏に浮気されてしまう星の元で生まれてきてしまったに違いないと思うくらい。中学生の時に初めての彼氏ができてから、ずっとこんな人生。だから、結婚なんて夢のまた夢。一生手が届かないんじゃないかって思う事すらある。
「もっと真面目な人と付き合えばいいじゃない」
「真面目に見えたんだよぉ……」
おばあちゃんがお煎餅を差し出すので、私はそれを手に取った。それを元彼だと思って、力の限りかみ砕いていく。おばあちゃんは呆れるように私を見ていた。
「真面目と言えば……」
私がぐずぐずと愚痴を言っていると、おじいちゃんが何かを思い出したように声をあげた。私は「どうしたの?」と聞き返す。
「いや、知り合いがな、自分の弟子にもそろそろ身を固める相手が欲しいとか言っていたのを思い出したんだが……亜美、会ってみるか?」
「えっ?」
「直接会ったことはないが、とても真面目な若者だよ」
「う、うん! 会う! 会いたい!」
思わぬところに出会いが転がっていた! 私は大きく頷く。
「でも、弟子ってなんの?」
「将棋だよ。ほら、行くぞ」
「え、今!? ちょっと待ってて!」
私は慌てて崩れたメイクを直し、服に皺がないかチェックする。前の前の前の彼氏の趣味だったフェミニンなワンピースを着てきて良かった。
「いってきます!」
「はい、いってらっしゃい」
おじいちゃんをめいいっぱい待たせて、私が玄関でパンプスを履いた。おばあちゃんにそう呼びかけると、今から面倒くさそうな声が聞こえてきた。孫娘の一大事なのに。
「おじいちゃん、将棋なんてやってたの?」
道中、私は気になっていた事を聞いた。おじいちゃんは「亜美、知らなかったのか?」とちょっとげんなりしていた。
「うちに将棋盤あっただろう?」
「それは知ってるけど、てっきりインテリア的なものだと思っていたから」
今も現役で使っているとは1ミリも知らなかった。私はおじいちゃんについていく、歩いて15分ほど経った頃、ようやっとおじいちゃんは足を止めた。目の前には少し古ぼけたビル。看板には【葉山将棋クラブ】と書いてあった。おじいちゃんと一緒にエレベーターに乗り、その将棋クラブのドアの前に立った。じわじわと緊張が体を包み込む。私が喉を鳴らすのと同時に、おじいちゃんはドアノブに手をかけて――。
「あれ、渡瀬さんじゃない?」
「おぉ! 立花さん!」