敏腕パイロットは純真妻を溢れる独占愛で包囲する
食堂2
「なるほどね」

 カレーライスを食べ終えて水を飲み、由良が頷いた。

「話してみたら思っていたよりも気さくな人だった。だから一緒に食事をすることになった、と」

「うん。本当に自然に、そういう気持ちになっちゃって。今から考えると、なんか魔法にかかったみたいだよね」

 総司との馴れ初めを話し終えて、可奈子はスプーンを置く。

 入社以来、由良とはずっと親しく付き合っているが総司とのことを詳しく話すのははじめてだった。

可奈子と彼は福岡での食事をきっかけに親しく話をするようになったのだが、可奈子はそれを社内の誰にも秘密にしていたからだ。

 なにしろ彼は社内では常に注目の的なのだ。

迂闊なこと言うわけにはいかない。

しかも恋人同士になってから結婚まではあっという間だったから由良と話をする暇もなかったのだ。

「声をかけられた時は、確かにちょっと困ったなって思っていたのに……」

 今思い出してても不思議なくらいコロリと気持ちが変わってしまった。

 由良がふふふと笑みを漏らした。

「でも、ま、それは仕方がないじゃないんじゃない? なんといってもあの如月さんなんだし。名前と顔を覚えててもらえたってだけでまいあがっちゃうよね。彼氏持ちの私だって冷静でいられたかどうか」

 その言葉に可奈子の胸がコツンと鳴った。

 そういえばあの時はその後の出来事に気を取られてあまり深くは考えなかったが、やっぱり彼が可奈子の名前と顔を把握していたことが不自然なような気がしたからだ。

 NANA・SKY全社でグランドスタッフは千人を下らないのだ。いくら同じ空港を拠点にしているとはいえ、やっぱりどう考えてもおかしかった。

 頭に、あの彼の日記の記述が浮かんだ。

"ここまでは、計画通り"

 日付が結婚式の日だったということは、彼の意図する"計画"が、可奈子との結婚に関わることだという可能性は高い。

 だとしたら、あの福岡での出会いが、その計画の始まりだったのだろうか。

 だから彼は普通なら知らないはずの可奈子の顔と名前を知っていた……?

「ま、あんたは気にせず、堂々としていればいいの! 極上の旦那さまを手に入れたんだもん。ちょっとしたやっかみは仕方がない仕方がない」

 明るく由良が言い切る。
 可奈子は胸の中に黒いもやもやが広がっていくのを感じながら、無理やり笑みを浮かべた。

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