敏腕パイロットは純真妻を溢れる独占愛で包囲する
総司の思惑
 夜更けの夫婦のベッドの中で、すーすーと寝息を立てる可奈子を、総司はジッと見つめている。

 柔らかくて真っ直ぐな黒い髪、長いまつ毛、ふっくらとした白い頬。濡れたような大きな瞳のせいで、年齢よりも少し若く見られるのが悩みだと本人は言うが、総司の目にはなにもかもが愛おしく映る。

ついさっきまで、腕の中に閉じ込めて、思うままに抱いていたというのに、またすぐにでも手が伸びてしまいそうになるほどだった。

 どこか不安そうに寄った眉に、総司はそっと指で触れる。

そして、今夜の彼女を思い出す。

 慣れない行為に恥じらうのはいつものことだが、それにしてもなにかが違うような気がした。

 どこかうわの空で、心がここにないような。

それでいてなにか言いたげな瞳で、総司を見つめていた。

 艶のある黒い髪に指を絡めて総司は考え込む。

 彼女がNANA・SKYに入社してはじめて話をした日から、約一年という短い期間で結婚までこぎつけた。

 すべてが順調に進んでいるはず。

だが、ここにきてズレがではじめているのだろうか。

 眠る可奈子にキスをして、総司はそっとベッドを出る。

将来は子供部屋にしようと話している玄関脇の個室へ行き、デスクの引き出しを開けると、中から黒い皮のノートを取り出した。

 パイロットという職に就いた時から、ほぼ毎日つけている日記である。

 たくさんの人の命を預かり、ほんのわずかなミスも許されないという職業柄、パイロット仲間の中には弦を担ぐという意味で、なにかを習慣にしている者が多い。
 フライトのある日は、必ず右から靴を履く、下着は必ず青にするなど。

 何事もなく無事に一日一日を積み重ねていきたいという思いで、総司は日記をつけている。

 一行にも満たない簡単なものだ。

《晴天、空港食堂にてカレー》

 大抵はその日の天気と、昼に食べたメニュー。

 その中に混じる可奈子に関する記述を、ぺらりぺらりとページをめくりながら、総司は目で追っていく。

そして約一年前の日付を探しあてた。

《福岡にて、食事に成功》

 その内容に、思わず総司は笑みを浮かべる。

 感想や感情などは、ほとんどない日記の中の"成功"の文字が、あの日の自分の高揚を物語っている。

 ——そう、総司の計画は、すべてここから始まったのだ。

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