敏腕パイロットは純真妻を溢れる独占愛で包囲する
深まる疑念
 久しぶりにゆっくりと夫婦で過ごせた日の次の日は、総司は深夜帰宅の予定だった。可奈子はひとりリビングのソファに座り考え込む。

 昨夜彼はいつもの通り可奈子に優くしてくれた。

たくさんの愛の言葉を囁いて、夫婦としての触れ合いにまだ慣れなくて戸惑う可奈子を、優しく導くように翻弄した。

 霞んでゆく思考の中で、可奈子は胸の中の疑惑を一生懸命に打ち消そうと試みたのだ。

 私は彼に、こんなにも愛されている。

 だから不安に思うことなどなにもない。

 でもそれは失敗に終わってしまった。

 胸の中にはまだ灰色のモヤが渦巻いていて、可奈子を苦しめ続けている。

 目を閉じて、深呼吸をひとつすると、可奈子は立ち上がりリビングを出る。恐る恐る廊下を進み彼の書斎へ向かった。

 薄暗い部屋で皮のノートが置いてあった机の前に立つ。

 頭の中を支配するのは、彼に対する罪悪感と、とてつもなく大きな恐怖だった。
 人の日記を勝手に見るなど許されることではない。

でもこのままでは何事もなかったような顔をして、夫婦でいられる自信がない。

 偶然日記を見てしまったあの時は、その記述の内容にただただ気が動転して、その部分だけしか読まなかった。

でももしかしたら他のページに、"計画"の詳細が書いてあるのかもしれない。

 それが自分とは関係ないということだけを確認すれば、また元通り仲のいい新婚夫婦に戻れるだろう。

 だから、総司さんごめんなさい。

 可奈子はこくりと喉を鳴らして、震える手で引き出しを開ける。

果たして、件の日記はそこにあった。

 ドキンドキンと嫌な音で心臓が鳴るのを聞きながらそれを手に取り、可奈子はすぐに違和感を覚える。

「……新しくなってる」

 ほとんど同じデザインだが、前回見たのとは明らかに違っている。

 そういえば前回読んだページは終わりの方だっただろうかと可奈子は記憶を辿るけれど、よく思い出せなかった。

あの日はそれどころではなかったのだ。

 恐る恐るノートを開くと、一番はじめのページに書かれてある昨日の日付。

その衝撃的な内容に、可奈子は思わず日記を取り落とす。

パサリと日記が落ちる音は、ドクンドクンと激しくなる自分の鼓動にかき消された。

《可奈子の様子がおかしい。この結婚に不安を感じているのだろうか。やはりこれからも慎重に行動しなくては》

 願っていたのとはまったく逆の事実を突きつけられて、可奈子の胸が絶望の色に染まっていく。

 やはり、この結婚には裏がある。

 純粋に愛情だけで結ばれた結婚ではなかったのだ。

 いや可奈子の方は彼を愛している。だから結婚したいと願ったのだ。
 だが、彼の方は……。
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