敏腕パイロットは純真妻を溢れる独占愛で包囲する
秘密の非常階段
弱い雨がシトシトと降り窓の外を濡らしている。一日の終わり、グランドスタッフのロッカールームで制服を脱ぎながら可奈子は浮かない気持ちでため息をついた。
彼の日記を確認してから一週間が経った。
総司とはすれ違いの日々が続いていて、ほとんどろくに顔を合わせていない。
今朝も彼は夜明け前の出勤だったが、可奈子は寝坊をしたフリをしていつもの見送りをしなかった。
いったいどんな顔をして彼のそばにいればいいのかが、まったくわからなかったからだ。
勇気を振り絞って彼の日記を見た結果は、散々なものだった。
結局、計画の内容についてはわからないまま、自分との結婚が愛情だけで結ばれたものではないのだと知ってしまったのだ。
この一週間、可奈子はCAたちが冗談混じりに口にしていた"契約結婚"や"偽装結婚"というワードをインターネットで検索してはため息をついている。
夫婦間の認識に微妙な違いこそあれ、どちらにも共通するのは、愛し合っているわけではなく、別の目的を達成するための便宜上の結婚だという点だ。
総司は"計画"を達成するために可奈子と結婚したのだろうか。
恋に落ちたフリをして……?
「……なこ、かーなこ、可奈子ってば!」
隣のロッカーで同じく制服を着替えている由良に、大きな声で呼びかけられて可奈子はハッとして顔を上げる。
由良が呆れたような声を出した。
「なに、ぼーとして。今頃マリッジブルー?」
首を傾げる彼女に、可奈子は思わず問いかけた。
「ねえ、由良。総司さんみたいな人が私と結婚するメリットってなにがある?」
「え? メリット?」
由良が目をパチパチさせた。
「そう。た、たとえば、モテすぎて女の人に声をかけられるのがうっとおしいから、結婚だけでもしてしまえば楽になるとか、体調管理のために家事をしてほしかったとか……」
自分ではなにも思いつかないから、可奈子はCAたちの話をそのまま口にする。
由良が怪訝な表情になった。
「なにそれ。如月さんにそう言われたの? 家事は全部お前がやれって?」
「えっ? ち、違う違う! そうじゃないけど」
もちろん彼はそんなことは言わない。
むしろ家事は、ひとり暮らしが長かった彼の方が得意だから、可奈子よりもたくさん負担してくれている。
「じゃあ、なんでそんなこと言うのよ」
由良が心配顔になる。
可奈子は急に後悔した。
日記の件を相談するわけにいかないのに、不用意なことを言ってしまったら、いらぬ心配をかけてしまう。
「い、今更だけど、なんで私が彼と結婚できたのかなーなんて思ったんだよね。……やっぱり遅れてきたマリッジブルーかな」
はははと笑ってごまかすと、由良が可奈子をジロリと睨んだ。
「なんで可奈子が如月さんと結婚できたのかって、知りたいのはこっちだよ。そりゃ可奈子は可愛いから、合コンの誘いも多かったけどさ。何気にあんたガードが固かったじゃない? 個人的な誘いはそれとなく断ってたし。私パイロットだけじゃなくて、男の人自体が苦手なんだと思ってたんだけど」
その指摘に可奈子は素直に頷いた。
「それは……そうかもしれない。結婚願望はあったから、なんとかしなきゃって思って合コンには参加してたけど、男の人とふたりきりになるのは苦手なの。なにを話せばいいかわからなくなるのよ」
「如月さんは大丈夫だったってこと?」
その問いかけに可奈子は少し考えてから頷いた。
「そうだね。……少なくともなにを話せばいいかわからないって感じではなかったかな。共通の話題があったから……」
「共通の?」
「そう。時々由良も付き合ってくれてたけど、私、食べ歩きに凝ってるでしょ。それで……」
由良に向かって話しをしながら、可奈子は二回目に総司と話をした時のことを思い出していた。
彼の日記を確認してから一週間が経った。
総司とはすれ違いの日々が続いていて、ほとんどろくに顔を合わせていない。
今朝も彼は夜明け前の出勤だったが、可奈子は寝坊をしたフリをしていつもの見送りをしなかった。
いったいどんな顔をして彼のそばにいればいいのかが、まったくわからなかったからだ。
勇気を振り絞って彼の日記を見た結果は、散々なものだった。
結局、計画の内容についてはわからないまま、自分との結婚が愛情だけで結ばれたものではないのだと知ってしまったのだ。
この一週間、可奈子はCAたちが冗談混じりに口にしていた"契約結婚"や"偽装結婚"というワードをインターネットで検索してはため息をついている。
夫婦間の認識に微妙な違いこそあれ、どちらにも共通するのは、愛し合っているわけではなく、別の目的を達成するための便宜上の結婚だという点だ。
総司は"計画"を達成するために可奈子と結婚したのだろうか。
恋に落ちたフリをして……?
「……なこ、かーなこ、可奈子ってば!」
隣のロッカーで同じく制服を着替えている由良に、大きな声で呼びかけられて可奈子はハッとして顔を上げる。
由良が呆れたような声を出した。
「なに、ぼーとして。今頃マリッジブルー?」
首を傾げる彼女に、可奈子は思わず問いかけた。
「ねえ、由良。総司さんみたいな人が私と結婚するメリットってなにがある?」
「え? メリット?」
由良が目をパチパチさせた。
「そう。た、たとえば、モテすぎて女の人に声をかけられるのがうっとおしいから、結婚だけでもしてしまえば楽になるとか、体調管理のために家事をしてほしかったとか……」
自分ではなにも思いつかないから、可奈子はCAたちの話をそのまま口にする。
由良が怪訝な表情になった。
「なにそれ。如月さんにそう言われたの? 家事は全部お前がやれって?」
「えっ? ち、違う違う! そうじゃないけど」
もちろん彼はそんなことは言わない。
むしろ家事は、ひとり暮らしが長かった彼の方が得意だから、可奈子よりもたくさん負担してくれている。
「じゃあ、なんでそんなこと言うのよ」
由良が心配顔になる。
可奈子は急に後悔した。
日記の件を相談するわけにいかないのに、不用意なことを言ってしまったら、いらぬ心配をかけてしまう。
「い、今更だけど、なんで私が彼と結婚できたのかなーなんて思ったんだよね。……やっぱり遅れてきたマリッジブルーかな」
はははと笑ってごまかすと、由良が可奈子をジロリと睨んだ。
「なんで可奈子が如月さんと結婚できたのかって、知りたいのはこっちだよ。そりゃ可奈子は可愛いから、合コンの誘いも多かったけどさ。何気にあんたガードが固かったじゃない? 個人的な誘いはそれとなく断ってたし。私パイロットだけじゃなくて、男の人自体が苦手なんだと思ってたんだけど」
その指摘に可奈子は素直に頷いた。
「それは……そうかもしれない。結婚願望はあったから、なんとかしなきゃって思って合コンには参加してたけど、男の人とふたりきりになるのは苦手なの。なにを話せばいいかわからなくなるのよ」
「如月さんは大丈夫だったってこと?」
その問いかけに可奈子は少し考えてから頷いた。
「そうだね。……少なくともなにを話せばいいかわからないって感じではなかったかな。共通の話題があったから……」
「共通の?」
「そう。時々由良も付き合ってくれてたけど、私、食べ歩きに凝ってるでしょ。それで……」
由良に向かって話しをしながら、可奈子は二回目に総司と話をした時のことを思い出していた。