敏腕パイロットは純真妻を溢れる独占愛で包囲する
「なるほどね」
ロッカーの戸をパタンと閉めて由良が頷いた。
「可奈子と如月さんの間には、食べ歩きという共通の話題があった。だからなにを話したらいいか迷うことはなかったし、また食事をすることになった、と」
「そう……今から思えばラッキーだよね」
いい店を探していたのは可奈子だけではなかった。
実は総司の方も、忙しくて気の抜けないスケジュールの中で、ステイの時はできるだけリラックスできる美味しい食事を取れる場所で過ごすことにこだわりを持っていたのだ。
本当なら共通点などなにもないふたりが同じようなことに興味を持っていたことは、今から思えば幸運だったと可奈子は思う。
でも由良の考えは少し違っているようだ。訝しむように目を細めて口を開いた。
「ラッキー? 本当にそうかなぁ?」
「由良?」
「だって、如月さんってすごくモテるのに、ガードが硬いっていう噂だったんだよ。魅惑のCA軍団に誘われても個人的な誘いには絶対に乗らないって言われていたんだから。美鈴さまとの噂だって、あくまでも美鈴さまの方が熱を上げてて、あの美鈴さまだからいつか落ちるだろうってみんな予想してただけでしょ。それなのに、可奈子とはそんなに簡単に連絡先を交換しちゃってさ」
由良はそこで言葉を切って、少し考えてからニヤリとして可奈子を見た。
「本当は如月さん、可奈子が食べ歩きに凝っているのを知っていて計画的に近づいてきたじゃないの?」
「え⁉︎」
「実は前々から気になってたとか。だったらはじめから可奈子の名前を知っていたのは納得だし。ふふふ、好きな子の趣味を事前にリサーチか。古典的だけど、有効な手段だよね」
「ま、まさか!」
ひとりで納得する由良に、可奈子は声をあげる。
「そ、そんなわけないじゃない!」
同時に胸がドキンと嫌な音を立てた。
今彼女が口にした"計画的に近づいた"という言葉に、心当たりがあったからだ。
由良が言うようにもともと彼が可奈子のことを気に入っていたなんてことはありえない。
でも彼が別の目的で計画的に可奈子に近づいたというのは彼の日記の記述にぴったりとあてはまる。
目的は不明だが"計画"を成功させるために、彼は可奈子に近づき結婚した。
だとしたら、本当なら共通点など一切なく釣り合いもとれていないふたりが奇跡的に恋に落ちたのも納得だ。
彼の過去の恋愛遍歴を可奈子はまったく知らないが、あのビジュアルとスペックからして豊富なのは間違いない。
そんな彼にかかったら可奈子など赤子の手をひねるようなものだっただろう。
食い意地の張った可奈子なら、美味しい料理が食べられる店に連れて行けば簡単に落ちると思われたのかもしれない。
大阪の串カツ屋は、可奈子にとっては、はじめて男性と約束をして出かけたという大切な思い出だ。
デートともいえないようなものだけれど、可奈子にとっては人生の一大事だったのに。
彼にとっては、計画を成功させるためのただの手段にすぎなかったのだとしたら……。
「そうかなぁ、私にはそう思えるけど」
首をひねる由良の隣で、暗い気持ちのまま可奈子はロッカーの戸をパタンと閉じた。
ロッカーの戸をパタンと閉めて由良が頷いた。
「可奈子と如月さんの間には、食べ歩きという共通の話題があった。だからなにを話したらいいか迷うことはなかったし、また食事をすることになった、と」
「そう……今から思えばラッキーだよね」
いい店を探していたのは可奈子だけではなかった。
実は総司の方も、忙しくて気の抜けないスケジュールの中で、ステイの時はできるだけリラックスできる美味しい食事を取れる場所で過ごすことにこだわりを持っていたのだ。
本当なら共通点などなにもないふたりが同じようなことに興味を持っていたことは、今から思えば幸運だったと可奈子は思う。
でも由良の考えは少し違っているようだ。訝しむように目を細めて口を開いた。
「ラッキー? 本当にそうかなぁ?」
「由良?」
「だって、如月さんってすごくモテるのに、ガードが硬いっていう噂だったんだよ。魅惑のCA軍団に誘われても個人的な誘いには絶対に乗らないって言われていたんだから。美鈴さまとの噂だって、あくまでも美鈴さまの方が熱を上げてて、あの美鈴さまだからいつか落ちるだろうってみんな予想してただけでしょ。それなのに、可奈子とはそんなに簡単に連絡先を交換しちゃってさ」
由良はそこで言葉を切って、少し考えてからニヤリとして可奈子を見た。
「本当は如月さん、可奈子が食べ歩きに凝っているのを知っていて計画的に近づいてきたじゃないの?」
「え⁉︎」
「実は前々から気になってたとか。だったらはじめから可奈子の名前を知っていたのは納得だし。ふふふ、好きな子の趣味を事前にリサーチか。古典的だけど、有効な手段だよね」
「ま、まさか!」
ひとりで納得する由良に、可奈子は声をあげる。
「そ、そんなわけないじゃない!」
同時に胸がドキンと嫌な音を立てた。
今彼女が口にした"計画的に近づいた"という言葉に、心当たりがあったからだ。
由良が言うようにもともと彼が可奈子のことを気に入っていたなんてことはありえない。
でも彼が別の目的で計画的に可奈子に近づいたというのは彼の日記の記述にぴったりとあてはまる。
目的は不明だが"計画"を成功させるために、彼は可奈子に近づき結婚した。
だとしたら、本当なら共通点など一切なく釣り合いもとれていないふたりが奇跡的に恋に落ちたのも納得だ。
彼の過去の恋愛遍歴を可奈子はまったく知らないが、あのビジュアルとスペックからして豊富なのは間違いない。
そんな彼にかかったら可奈子など赤子の手をひねるようなものだっただろう。
食い意地の張った可奈子なら、美味しい料理が食べられる店に連れて行けば簡単に落ちると思われたのかもしれない。
大阪の串カツ屋は、可奈子にとっては、はじめて男性と約束をして出かけたという大切な思い出だ。
デートともいえないようなものだけれど、可奈子にとっては人生の一大事だったのに。
彼にとっては、計画を成功させるためのただの手段にすぎなかったのだとしたら……。
「そうかなぁ、私にはそう思えるけど」
首をひねる由良の隣で、暗い気持ちのまま可奈子はロッカーの戸をパタンと閉じた。