敏腕パイロットは純真妻を溢れる独占愛で包囲する
伊丹空港
「如月さん、お昼はどうします?」
伊丹空港にて、フライトを終えた総司はペアを組んでいた副操縦士に声をかけられる。
今日はステイではなく復路で東京へ戻るから、ここで休憩を取ることになっている。
数時間あく時は、空港内のレストランや近場の店に行くこともあるが、大抵は空港内にある食堂で済ませることが多かった。
「俺は食堂へ行くよ」
答えると副操縦士はついてくる。
「ご一緒します」
総司は頷いて歩き出した。
人懐っこい彼とはペアになるとこうやって昼食をともにすることが多い。機体の安全な運行のためには、機長と副操縦士のチームワークは大切だ。
食堂へ向かう道すがら空港内の土産物屋が並ぶエリアにさしかかる。
総司は副操縦士の話に耳を傾けながら、さりげなく店に並ぶ土産物のラインナップをチェックした。
可奈子のためである。
彼女は各地の土産物に目がない。
小さい頃パイロットである父親が、各地の美味しい土産物を買って帰ってくるのが楽しみだったという彼女は、今でもそのクセが抜けず、土産をもらうと勝手に胸がわくわくするのだという。
子供みたいで恥ずかしいと言いながらも、総司が土産を差し出すと目を輝かせて受け取る姿が愛おしくてたまらない。
そんな彼女を見たくて、売店の前を通ると総司はついついこうやって、新しいものはないかとチェックしてしまうのである。
それにめざとく気が付いた副操縦士に指摘される。
「如月さん。奥さんのお土産を物色してるでしょう」
総司は彼をチラリと見て咳払いをした。
「いや……まぁ」
「僕ら空港にある土産物なんて珍しくもないから今更土産を買う気にならないはずだけど。そりゃあんな可愛い、奥さんが家で待ってるならなにか買って帰りたくもなりますよね」
休憩時間に土産物を買うのは可奈子のためだと、総司は誰かに話をしたことはない。
でも今まではそんなことをしていなかったのだから、一目瞭然なのだろう。
若い新妻に夢中なのだということを見透かされているのが気恥ずかしく感じた。
「あーあ、羨ましいなぁ」
やや大袈裟にため息をつく副操縦士に、総司は少し後ろめたい気分になる。
彼は可奈子が入社した時から彼女を気に入っていて、食べ歩きに凝っているとかパイロット嫌いだとかいう情報を、雑談まじりに総司にくれた。
その話をもとに総司は彼女に近づいたのだ。
「まぁ、僕はとっくの昔に玉砕していましたからまったく可能性はなかったんでしょうけど。でも如月さん、伊東さんといつのまに、親しくなっていたんです?」
恨めしそうに言う彼に、まさか君からの情報が役に立ったなどと言えるわけもなく総司は言葉を濁す。
「いや、これといってなにかあったわけではないんだが、たまたま話をする機会が続いて……」
もちろんたまたまなどではなく、はじめての時同様、二度目も総司が計画的に声をかけたのだ。
自身の大阪ステイの日程と可奈子の休みが重なっているのを確認して。
我ながら古典的な作戦だったとは思うが、なにごともできるだけシンプルな計画を立てる方が成功しやすいものだ。
一度目は、パイロットに対する警戒心を解きつつ、偶然を装って。
二度目はひとりでは行きにくい場所に、付き添うという名目で。
関西地方独特のどこか陽気な空港内のざわめきを見つめながら、総司は可奈子と過ごした大阪の夜を思い出していた。
伊丹空港にて、フライトを終えた総司はペアを組んでいた副操縦士に声をかけられる。
今日はステイではなく復路で東京へ戻るから、ここで休憩を取ることになっている。
数時間あく時は、空港内のレストランや近場の店に行くこともあるが、大抵は空港内にある食堂で済ませることが多かった。
「俺は食堂へ行くよ」
答えると副操縦士はついてくる。
「ご一緒します」
総司は頷いて歩き出した。
人懐っこい彼とはペアになるとこうやって昼食をともにすることが多い。機体の安全な運行のためには、機長と副操縦士のチームワークは大切だ。
食堂へ向かう道すがら空港内の土産物屋が並ぶエリアにさしかかる。
総司は副操縦士の話に耳を傾けながら、さりげなく店に並ぶ土産物のラインナップをチェックした。
可奈子のためである。
彼女は各地の土産物に目がない。
小さい頃パイロットである父親が、各地の美味しい土産物を買って帰ってくるのが楽しみだったという彼女は、今でもそのクセが抜けず、土産をもらうと勝手に胸がわくわくするのだという。
子供みたいで恥ずかしいと言いながらも、総司が土産を差し出すと目を輝かせて受け取る姿が愛おしくてたまらない。
そんな彼女を見たくて、売店の前を通ると総司はついついこうやって、新しいものはないかとチェックしてしまうのである。
それにめざとく気が付いた副操縦士に指摘される。
「如月さん。奥さんのお土産を物色してるでしょう」
総司は彼をチラリと見て咳払いをした。
「いや……まぁ」
「僕ら空港にある土産物なんて珍しくもないから今更土産を買う気にならないはずだけど。そりゃあんな可愛い、奥さんが家で待ってるならなにか買って帰りたくもなりますよね」
休憩時間に土産物を買うのは可奈子のためだと、総司は誰かに話をしたことはない。
でも今まではそんなことをしていなかったのだから、一目瞭然なのだろう。
若い新妻に夢中なのだということを見透かされているのが気恥ずかしく感じた。
「あーあ、羨ましいなぁ」
やや大袈裟にため息をつく副操縦士に、総司は少し後ろめたい気分になる。
彼は可奈子が入社した時から彼女を気に入っていて、食べ歩きに凝っているとかパイロット嫌いだとかいう情報を、雑談まじりに総司にくれた。
その話をもとに総司は彼女に近づいたのだ。
「まぁ、僕はとっくの昔に玉砕していましたからまったく可能性はなかったんでしょうけど。でも如月さん、伊東さんといつのまに、親しくなっていたんです?」
恨めしそうに言う彼に、まさか君からの情報が役に立ったなどと言えるわけもなく総司は言葉を濁す。
「いや、これといってなにかあったわけではないんだが、たまたま話をする機会が続いて……」
もちろんたまたまなどではなく、はじめての時同様、二度目も総司が計画的に声をかけたのだ。
自身の大阪ステイの日程と可奈子の休みが重なっているのを確認して。
我ながら古典的な作戦だったとは思うが、なにごともできるだけシンプルな計画を立てる方が成功しやすいものだ。
一度目は、パイロットに対する警戒心を解きつつ、偶然を装って。
二度目はひとりでは行きにくい場所に、付き添うという名目で。
関西地方独特のどこか陽気な空港内のざわめきを見つめながら、総司は可奈子と過ごした大阪の夜を思い出していた。