敏腕パイロットは純真妻を溢れる独占愛で包囲する
総司の失敗
可奈子が出て行ったリビングで、ふたつ並んだドラマのタイトル画面を見つめて、総司は考え込んでいた。
彼女は明らかに動揺し、どう考えても挙動不審だった。そして総司の話をろくに聞かずに逃げるように出て行ったのだ。
その原因はおそらく画面に映るふたつのドラマ。
このなんの変哲もない海外ドラマに、なぜあそこまで動揺する?
ヒントがあるとすればさっき可奈子が口にした言葉だろう。
同僚が、ハマっていて……と、そこまで記憶を辿って、総司はハッとする。
彼女が最後に言った言葉だ。
『こんな旦那さんサイコーだよね』
総司はリモコンを手に取って、ドラマの詳細画面に飛ぶ。流れから言って"サイコーの旦那"はアットホームダーリンの方に出てくるのだろう。
あらすじには、ちょっとドジでマッチョなボディビルダーが家事に奮闘するホームコメディと書いてあった。
サイコーなのは、マッチョだろうか、それとも……。
考えながら、次に総司はスパイスカイのあらすじに飛ぶ。
スパイである主人公がパイロットという職業を隠れ蓑に暗躍する新感覚アクションのようだ。
こちらの主人公も結婚はしているが、正体を隠すための偽装結婚のようだった。
現実の世界では可奈子の夫に近いのはこちらだろうと総司は思う。
スパイという部分はさておいて、主人公はパイロットで、総司と同じ職業なのだから。
でもそこで総司の胸がコツンと鳴る。
可奈子が慌てていた理由がわかったような気がしたからだ。
彼女はパイロットドラマとホームコメディの両方を観た。
そしてアットホームダーリンの旦那の方をサイコーだと思ったのだ。
あらすじだけでも容易にわかるふたりの主人公の違い。それは、家庭的な夫かどうかということではないだろうか。
パイロットという職業柄、総司は、世界中を飛び回る。
必然的にあまり家にいられないのだ。
現に総司も結婚式を挙げてから可奈子とゆっくり過ごせたのは、片手で数えられるくらいだ。マッチョな旦那の足元にも及ばないだろう。
これしかないと総司は思う。
でなければ、ドラマを観ていたことを知られただけであんなに慌てる必要はない。
盲点だったと総司は思う。
総司との結婚で社内でつらい立場に立たされているのなら、なんとしても守ってやると心に決めた。
だがそれ以前の問題だったのだ。
まさか自分自身に至らないところがあったとは。
愕然としながらも総司は考えを巡らせる。早急に手を打たなければ、本当にまずいことになりそうだ。
新婚早々、忙しくてろくに顔を合わせることもできない夫に寂しい思いをしているのに、その夫のせいで職場では働きにくくなっている。この結婚は失敗だったと彼女が思っていてもおかしくはない。
最悪の事態もあり得ると、総司は青ざめた。
彼女が話してくれるのを待つなどという悠長なことは言っていられない。
なにかすぐにでもできることを、手にしているリモコンでカーソルを意味もなく動かしながら総司は考えを巡らせた。
彼女は明らかに動揺し、どう考えても挙動不審だった。そして総司の話をろくに聞かずに逃げるように出て行ったのだ。
その原因はおそらく画面に映るふたつのドラマ。
このなんの変哲もない海外ドラマに、なぜあそこまで動揺する?
ヒントがあるとすればさっき可奈子が口にした言葉だろう。
同僚が、ハマっていて……と、そこまで記憶を辿って、総司はハッとする。
彼女が最後に言った言葉だ。
『こんな旦那さんサイコーだよね』
総司はリモコンを手に取って、ドラマの詳細画面に飛ぶ。流れから言って"サイコーの旦那"はアットホームダーリンの方に出てくるのだろう。
あらすじには、ちょっとドジでマッチョなボディビルダーが家事に奮闘するホームコメディと書いてあった。
サイコーなのは、マッチョだろうか、それとも……。
考えながら、次に総司はスパイスカイのあらすじに飛ぶ。
スパイである主人公がパイロットという職業を隠れ蓑に暗躍する新感覚アクションのようだ。
こちらの主人公も結婚はしているが、正体を隠すための偽装結婚のようだった。
現実の世界では可奈子の夫に近いのはこちらだろうと総司は思う。
スパイという部分はさておいて、主人公はパイロットで、総司と同じ職業なのだから。
でもそこで総司の胸がコツンと鳴る。
可奈子が慌てていた理由がわかったような気がしたからだ。
彼女はパイロットドラマとホームコメディの両方を観た。
そしてアットホームダーリンの旦那の方をサイコーだと思ったのだ。
あらすじだけでも容易にわかるふたりの主人公の違い。それは、家庭的な夫かどうかということではないだろうか。
パイロットという職業柄、総司は、世界中を飛び回る。
必然的にあまり家にいられないのだ。
現に総司も結婚式を挙げてから可奈子とゆっくり過ごせたのは、片手で数えられるくらいだ。マッチョな旦那の足元にも及ばないだろう。
これしかないと総司は思う。
でなければ、ドラマを観ていたことを知られただけであんなに慌てる必要はない。
盲点だったと総司は思う。
総司との結婚で社内でつらい立場に立たされているのなら、なんとしても守ってやると心に決めた。
だがそれ以前の問題だったのだ。
まさか自分自身に至らないところがあったとは。
愕然としながらも総司は考えを巡らせる。早急に手を打たなければ、本当にまずいことになりそうだ。
新婚早々、忙しくてろくに顔を合わせることもできない夫に寂しい思いをしているのに、その夫のせいで職場では働きにくくなっている。この結婚は失敗だったと彼女が思っていてもおかしくはない。
最悪の事態もあり得ると、総司は青ざめた。
彼女が話してくれるのを待つなどという悠長なことは言っていられない。
なにかすぐにでもできることを、手にしているリモコンでカーソルを意味もなく動かしながら総司は考えを巡らせた。