敏腕パイロットは純真妻を溢れる独占愛で包囲する
里香
「なるほどね、如月さんが可奈子の気持ちを受け止めてくれたんだ」
赤レンガ倉庫での話に由良が頷いた。
「そう。だからそのことはもう私の中で解決してるんだ……」
「……でも今は今で不安なことがあるってわけか」
由良の言葉に、可奈子は頷く。
不安の内容を話すわけにはいかないけれど、もはや悩んでいることを隠せる状況ではなかった。
「うん、ちょっと……でも、事情が複雑で言えないんだ。ごめんね……」
眉間に皺を寄せる由良に、可奈子がそう謝った時。
「シーズン二のルーカスはやばかった!」
突然背後から聞き覚えのある声と、気になるワードが聞こえて、可奈子は口を閉じる。ルーカス、スカイスパイの主人公の名前だった。
そぉっと後ろを伺うと、何人かのCAたちが固まってランチを取っている。
その中のひとりが意気揚々として話しはじめた。
「皆も絶対に観るべきだって、スカイスパイ! も~ルーカスがカッコいいんだから! 私はついについにシーズン二突入だよ~」
「……あんたまた休みを全部ドラマで潰したんでしょ」
熱く語るCAに、別のCAが少し冷めた調子で応えている。会話の内容から察するに、ロッカールームでスカイスパイの話をしていたCAたちだと可奈子は思った。
「可奈子?」
一方で由良は、急に話すのをやめた可奈子を不思議そうに首を傾げて見つめている。可奈子は人差し指を唇に当てて、CAのグループに視線を移した。
由良が訝しむようにそちらを見て、口を閉じた。
「シーズン二は、ルーカスとローズ、イライザの三角関係に決着がつくんだって。絶対に見逃せないと思わない?」
ローズはルーカスの相棒で、イライザは偽装結婚の妻だ。
「え、あーうん、まぁ……そうかな」
しらーとした同僚たちの反応とは裏腹に、可奈子は耳がダンボだった。
可奈子はまだシーズン一の第一話しか観ていないけれど、あの時点ではローズの方が圧倒的に有利だった。
平凡で美人でもないイライザをルーカスは完全に任務を成功させるための駒としか見ていなかったように思う。
シーズン二では様子が違うのだろうか。
「どっちを選ぶって……イライザが捨てられるんでしょ」
おそらくはドラマ自体は観てなくて、ドラマオタクの彼女から話を聞きかじっているだけであろう同僚が口を挟む。
するとドラマオタクのCAが首を横に振った。
「それがわからないのよ。ルーカスは任務を遂行しながら、イライザと過ごすうちに彼女に惹かれているのよ。スパイとして過酷な任務に挑まなきゃいけない生活のなかで平凡だけど優しいイライザが唯一の癒しになっているんだ」
少し意外な展開に、可奈子は驚いて目を開く。そういうこともありうるのか。
……だったら自分も、もしかしたら……と淡い期待を可奈子は抱いてしまいそうになる。でも彼女の話にはまだ続きがあるようだ。
「ルーカスとイライザの距離は近づくんだけど、それにローズが嫉妬して、組織に告げ口するんだ。イライザがルーカスの正体に気が付いてるって。それで組織からルーカスにイライザを殺すように命令が下って……」
やっぱり、と可奈子は思う。スパイの正体を知った人間を、組織は生かしてはおかない。
ルーカスは一体どうするのだろう。
「ルーカスは組織の命令には逆らえないから、イライザを殺すことにするんだ。イライザの誕生日に自分が料理を作ってあげるって言って油断させて、その中に毒を……」
「え‼︎」
そのあまりにもひどい内容に可奈子は思わず声をあげる。こっそり聞き耳を立てていたのも忘れてドラマオタクの彼女を振り返った。
「料理に毒を……?」
由良は目を丸くして、CAたちは話しをやめて、それぞれ可奈子に注目している。
「か、可奈子……? どうしたの?」
由良から問いかけられても、答ることができなかった。
CAのひとりが別のCAに「あの子だよ。ほら如月さんの……」と囁いた。
当たり前だけれど、完全に不審な目で見られている。
同じ制服を着ているから同じ会社だということはわかっているがお互いに話をしたこともない相手なのだ。
それなのにいきなり話に割って入ったのだから。
でもどうしても聞かずにはいられなくて、可奈子は件のCAに問いかけた。
「それで、ルーカスはイライザを殺したんですか……?」
だってあまりにも今の自分と重なるところが多すぎる。
今夜可奈子の方が早く帰れることは明白なのに、総司は、夕食を自分が作ると主張した。思い返してみれば、彼はいつになく深刻な表情だった。
そして可奈子は、イライザ同様、彼の正体に気付いているのではないかという容疑がかかっている。
なにもかもがぴたりと当てはまる。
とても他人事とは思えなかった。
もちろん、ルーカスと総司は同一人物ではないから、結末が同じだとは限らない。それでもルーカスがどうしたのかということを知らずにはいられない。
可奈子の剣幕に驚いたように瞬きをするCAに、可奈子はもう一度問いかけた。
「毒を飲ませたんですか⁉︎」
CAがようやく口を開いた。
「し、知らないわよ。昨日はそこまでで終わったんだもの」
その言葉に可奈子は「なんだ……」と呟いて、長い息をふーっと吐く。
結末を知りたいような、知らなくてよかったようななんともいえない気持ちだ。
その可奈子の反応に、CAがムッとして口を開いた。
「あなた、なんなのよ。スカイスパイ観てるわけ?」
「はい、少し……」
「だったらおかしいじゃない。なんでネタバレを望むのよ。普通逆でしょ、その先は言わないでって思うもんじゃない」
どうやらドラマオタクの彼女には、続きを聞きたがる可奈子の行動が理解できないようだ。
もちろん可奈子だって純粋にドラマを楽しんでいるのならそうだろう。
でも今はそうも言っていられないのだ。
なにしろ総司がご飯を作ると言っているのは今夜なのだから。
CAが咳払いをした。
そして可奈子をジロリと見て「あなたグランドスタッフの伊東さんね?」と確認をしてから話しはじめた。
「まず、スカイスパイを観てるっていうところは、評価するわ。なかなか趣味がいいじゃない。でもネタバレを望むのは邪道よ、ちゃんと自分の目で観なさい。楽して結末を知ろうとする行為は、ドラマに対する冒涜よ」
「はい……」
彼女のもっともな言い分に可奈子は素直に頷いた。
「ちゃんと自分で観るのよ。なんなら今日帰ってすぐにでも。絶対に観る価値ありだから。それは私が保証する」
この様子じゃ、たとえ彼女が結末を知っていたとしてもおしえてはくれなかっただろう。
可奈子はため息をついて、ひとり言を言う。
「でも、今日はアットホームダーリンを観る約束をしちゃったんだもの……」
今さらスカイスパイを観たいと言ったら総司に不審がられてしまう。いやそもそもその前に、夕食だ。とてもじゃないが間に合わない。
するといきなりCAにガシッと肩を掴まれた。
「⁉︎」
「あなた今日、アットホームダーリンを観るの⁉︎」
「え? あ……は、はい」
その剣幕にたじろぎながら、可奈子は頷く。すると彼女は心底嬉しそうににっこりとした。
「あなた本当にわかってるのね! やっとあのエプロンマッチョのよさがわかる子が見つかったわ」
そして同僚たちを振り返った。
「ドラマ友達ゲットよ!」
同僚たちがやれやれというようにため息をついたり、苦笑したりしている。
「よかったじゃない、里香の海外ドラマ好きについていける子は貴重よね」
「奇跡が起こったわ」
どうやら可奈子は里香と呼ばれたCAに負けず劣らず海外ドラマ好きだと思われてしまったようだ。
それは違うと思い、可奈子は慌てて否定した。
「あ、あの、誤解です。私、べつに海外ドラマ好きってわけじゃないんです。本当に最近、ちょっとしたきっかけで観ようかなって思って観ただけで……アットホームダーリンの方はまだ一話も観てないんです。観ようと思っているだけで……!」
「きっかけはなんだっていいのよ! 好きになったらなんだって。それにまだ観はじめてまだ日が浅いのにアットホームダーリンを選んだところに、キラリと光るものがあると私は思う。絶対に感想をおしえてね。なんならDVD全巻持ってるから貸そうか?」
「え? えー、と、とりあえずは大丈夫です……」
可奈子が言うと、里香以外のCAがくすくす笑い出す。
「里香に捕まったら逃げられないよ、伊東さん。災難ね」
「ま、私たちは助かるかな。かわいそうだけど、先に絡んできたのはそっちなんだから、諦めて。そろそろいくよ、里香」
そう言って空になった食器が載ったお盆を手に立ち上がった。
「え、あ、あの……」
「じゃあね、伊東さん。ばっちり顔も名前も覚えたから逃がさないよ」
そう念を押して、里香も彼女たちに続く。食堂の人混みに消えていく背中を、可奈子は呆気にとられて見送った。
それまで黙って事態を見守っていた由良が、眉を寄せた。
「大丈夫? 可奈子。あれって、CAの先輩でしょ。なんか圧の強そうな人だけど」
「うん……大丈夫、と思う」
戸惑いながらも可奈子は頷く。予想外の展開だが、思っていたよりも悪い人たちではなさそうだ。
「でも、可奈子ドラマなんて観ないじゃない。やっぱり観なかったなんて言ったらめっちゃ怒られそうだけど」
「そ、それも、大丈夫。海外ドラマって観てみたら案外面白かった」
スカイスパイの設定があまりに自分と被るのでつらくて観るのをやめてしまったが、ドラマ自体は面白かった。
自分の抱えている問題と無関係だったなら、あのまま二話、三話と観ていただろう。
「さっき言ってたやつを、今夜、観ようねって言ってるのも本当だから……」
「ならいいけど」
安心して頷く由良を見つめながら、可奈子はまた総司のことを思い出す。
今夜、彼と一緒に過ごす夜。いったいなにが起こるのだろう。
可奈子の胸が不安でいっぱいになった。
赤レンガ倉庫での話に由良が頷いた。
「そう。だからそのことはもう私の中で解決してるんだ……」
「……でも今は今で不安なことがあるってわけか」
由良の言葉に、可奈子は頷く。
不安の内容を話すわけにはいかないけれど、もはや悩んでいることを隠せる状況ではなかった。
「うん、ちょっと……でも、事情が複雑で言えないんだ。ごめんね……」
眉間に皺を寄せる由良に、可奈子がそう謝った時。
「シーズン二のルーカスはやばかった!」
突然背後から聞き覚えのある声と、気になるワードが聞こえて、可奈子は口を閉じる。ルーカス、スカイスパイの主人公の名前だった。
そぉっと後ろを伺うと、何人かのCAたちが固まってランチを取っている。
その中のひとりが意気揚々として話しはじめた。
「皆も絶対に観るべきだって、スカイスパイ! も~ルーカスがカッコいいんだから! 私はついについにシーズン二突入だよ~」
「……あんたまた休みを全部ドラマで潰したんでしょ」
熱く語るCAに、別のCAが少し冷めた調子で応えている。会話の内容から察するに、ロッカールームでスカイスパイの話をしていたCAたちだと可奈子は思った。
「可奈子?」
一方で由良は、急に話すのをやめた可奈子を不思議そうに首を傾げて見つめている。可奈子は人差し指を唇に当てて、CAのグループに視線を移した。
由良が訝しむようにそちらを見て、口を閉じた。
「シーズン二は、ルーカスとローズ、イライザの三角関係に決着がつくんだって。絶対に見逃せないと思わない?」
ローズはルーカスの相棒で、イライザは偽装結婚の妻だ。
「え、あーうん、まぁ……そうかな」
しらーとした同僚たちの反応とは裏腹に、可奈子は耳がダンボだった。
可奈子はまだシーズン一の第一話しか観ていないけれど、あの時点ではローズの方が圧倒的に有利だった。
平凡で美人でもないイライザをルーカスは完全に任務を成功させるための駒としか見ていなかったように思う。
シーズン二では様子が違うのだろうか。
「どっちを選ぶって……イライザが捨てられるんでしょ」
おそらくはドラマ自体は観てなくて、ドラマオタクの彼女から話を聞きかじっているだけであろう同僚が口を挟む。
するとドラマオタクのCAが首を横に振った。
「それがわからないのよ。ルーカスは任務を遂行しながら、イライザと過ごすうちに彼女に惹かれているのよ。スパイとして過酷な任務に挑まなきゃいけない生活のなかで平凡だけど優しいイライザが唯一の癒しになっているんだ」
少し意外な展開に、可奈子は驚いて目を開く。そういうこともありうるのか。
……だったら自分も、もしかしたら……と淡い期待を可奈子は抱いてしまいそうになる。でも彼女の話にはまだ続きがあるようだ。
「ルーカスとイライザの距離は近づくんだけど、それにローズが嫉妬して、組織に告げ口するんだ。イライザがルーカスの正体に気が付いてるって。それで組織からルーカスにイライザを殺すように命令が下って……」
やっぱり、と可奈子は思う。スパイの正体を知った人間を、組織は生かしてはおかない。
ルーカスは一体どうするのだろう。
「ルーカスは組織の命令には逆らえないから、イライザを殺すことにするんだ。イライザの誕生日に自分が料理を作ってあげるって言って油断させて、その中に毒を……」
「え‼︎」
そのあまりにもひどい内容に可奈子は思わず声をあげる。こっそり聞き耳を立てていたのも忘れてドラマオタクの彼女を振り返った。
「料理に毒を……?」
由良は目を丸くして、CAたちは話しをやめて、それぞれ可奈子に注目している。
「か、可奈子……? どうしたの?」
由良から問いかけられても、答ることができなかった。
CAのひとりが別のCAに「あの子だよ。ほら如月さんの……」と囁いた。
当たり前だけれど、完全に不審な目で見られている。
同じ制服を着ているから同じ会社だということはわかっているがお互いに話をしたこともない相手なのだ。
それなのにいきなり話に割って入ったのだから。
でもどうしても聞かずにはいられなくて、可奈子は件のCAに問いかけた。
「それで、ルーカスはイライザを殺したんですか……?」
だってあまりにも今の自分と重なるところが多すぎる。
今夜可奈子の方が早く帰れることは明白なのに、総司は、夕食を自分が作ると主張した。思い返してみれば、彼はいつになく深刻な表情だった。
そして可奈子は、イライザ同様、彼の正体に気付いているのではないかという容疑がかかっている。
なにもかもがぴたりと当てはまる。
とても他人事とは思えなかった。
もちろん、ルーカスと総司は同一人物ではないから、結末が同じだとは限らない。それでもルーカスがどうしたのかということを知らずにはいられない。
可奈子の剣幕に驚いたように瞬きをするCAに、可奈子はもう一度問いかけた。
「毒を飲ませたんですか⁉︎」
CAがようやく口を開いた。
「し、知らないわよ。昨日はそこまでで終わったんだもの」
その言葉に可奈子は「なんだ……」と呟いて、長い息をふーっと吐く。
結末を知りたいような、知らなくてよかったようななんともいえない気持ちだ。
その可奈子の反応に、CAがムッとして口を開いた。
「あなた、なんなのよ。スカイスパイ観てるわけ?」
「はい、少し……」
「だったらおかしいじゃない。なんでネタバレを望むのよ。普通逆でしょ、その先は言わないでって思うもんじゃない」
どうやらドラマオタクの彼女には、続きを聞きたがる可奈子の行動が理解できないようだ。
もちろん可奈子だって純粋にドラマを楽しんでいるのならそうだろう。
でも今はそうも言っていられないのだ。
なにしろ総司がご飯を作ると言っているのは今夜なのだから。
CAが咳払いをした。
そして可奈子をジロリと見て「あなたグランドスタッフの伊東さんね?」と確認をしてから話しはじめた。
「まず、スカイスパイを観てるっていうところは、評価するわ。なかなか趣味がいいじゃない。でもネタバレを望むのは邪道よ、ちゃんと自分の目で観なさい。楽して結末を知ろうとする行為は、ドラマに対する冒涜よ」
「はい……」
彼女のもっともな言い分に可奈子は素直に頷いた。
「ちゃんと自分で観るのよ。なんなら今日帰ってすぐにでも。絶対に観る価値ありだから。それは私が保証する」
この様子じゃ、たとえ彼女が結末を知っていたとしてもおしえてはくれなかっただろう。
可奈子はため息をついて、ひとり言を言う。
「でも、今日はアットホームダーリンを観る約束をしちゃったんだもの……」
今さらスカイスパイを観たいと言ったら総司に不審がられてしまう。いやそもそもその前に、夕食だ。とてもじゃないが間に合わない。
するといきなりCAにガシッと肩を掴まれた。
「⁉︎」
「あなた今日、アットホームダーリンを観るの⁉︎」
「え? あ……は、はい」
その剣幕にたじろぎながら、可奈子は頷く。すると彼女は心底嬉しそうににっこりとした。
「あなた本当にわかってるのね! やっとあのエプロンマッチョのよさがわかる子が見つかったわ」
そして同僚たちを振り返った。
「ドラマ友達ゲットよ!」
同僚たちがやれやれというようにため息をついたり、苦笑したりしている。
「よかったじゃない、里香の海外ドラマ好きについていける子は貴重よね」
「奇跡が起こったわ」
どうやら可奈子は里香と呼ばれたCAに負けず劣らず海外ドラマ好きだと思われてしまったようだ。
それは違うと思い、可奈子は慌てて否定した。
「あ、あの、誤解です。私、べつに海外ドラマ好きってわけじゃないんです。本当に最近、ちょっとしたきっかけで観ようかなって思って観ただけで……アットホームダーリンの方はまだ一話も観てないんです。観ようと思っているだけで……!」
「きっかけはなんだっていいのよ! 好きになったらなんだって。それにまだ観はじめてまだ日が浅いのにアットホームダーリンを選んだところに、キラリと光るものがあると私は思う。絶対に感想をおしえてね。なんならDVD全巻持ってるから貸そうか?」
「え? えー、と、とりあえずは大丈夫です……」
可奈子が言うと、里香以外のCAがくすくす笑い出す。
「里香に捕まったら逃げられないよ、伊東さん。災難ね」
「ま、私たちは助かるかな。かわいそうだけど、先に絡んできたのはそっちなんだから、諦めて。そろそろいくよ、里香」
そう言って空になった食器が載ったお盆を手に立ち上がった。
「え、あ、あの……」
「じゃあね、伊東さん。ばっちり顔も名前も覚えたから逃がさないよ」
そう念を押して、里香も彼女たちに続く。食堂の人混みに消えていく背中を、可奈子は呆気にとられて見送った。
それまで黙って事態を見守っていた由良が、眉を寄せた。
「大丈夫? 可奈子。あれって、CAの先輩でしょ。なんか圧の強そうな人だけど」
「うん……大丈夫、と思う」
戸惑いながらも可奈子は頷く。予想外の展開だが、思っていたよりも悪い人たちではなさそうだ。
「でも、可奈子ドラマなんて観ないじゃない。やっぱり観なかったなんて言ったらめっちゃ怒られそうだけど」
「そ、それも、大丈夫。海外ドラマって観てみたら案外面白かった」
スカイスパイの設定があまりに自分と被るのでつらくて観るのをやめてしまったが、ドラマ自体は面白かった。
自分の抱えている問題と無関係だったなら、あのまま二話、三話と観ていただろう。
「さっき言ってたやつを、今夜、観ようねって言ってるのも本当だから……」
「ならいいけど」
安心して頷く由良を見つめながら、可奈子はまた総司のことを思い出す。
今夜、彼と一緒に過ごす夜。いったいなにが起こるのだろう。
可奈子の胸が不安でいっぱいになった。