敏腕パイロットは純真妻を溢れる独占愛で包囲する
真実
 夜の街を息を切らして駆け抜ける。溢れ出す涙が頬を濡らして冷たかった。
 混乱して、なにをどうすればいいのかさっぱりわからないけれど、とにかく彼から逃げたい。どうにもならない現実から、背を向けたかった。
 街路樹が並ぶ整然とした遊歩道を、頭が真っ白なまま、可奈子は走る。
 いつのまにかあるマンションの前にたどり着いていた。肩で息をしながらマンションを見上げる。どこを目指しているという明確な意識はなかったが、今の可奈子に行ける場所はここだけだ。
 ロビーに入りインターホンの前に立ち、可奈子はしばらく逡巡する。この状態のまま、ボタンを押すわけにはいかない。財布も持たず、連絡もせずに突然現れたりしたらきっと心配をかけてしまう。
 やっぱり、引き返そうかと思った時。
「可奈子?」
 名前を呼ばれて、可奈子はびくっと肩を揺らす。振り返ると、父と母がいた。
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