敏腕パイロットは純真妻を溢れる独占愛で包囲する
「可奈子、ほら言ってごらん」
夫婦のための大きなベッドの上でヘッドボードにもたれかかって座っている可奈子の両脇に手をついてにっこりと微笑んで総司が言う。
可奈子は困り果てていた。
「でも……」
ためらう可奈子の頬に、総司は柔らかなキスを落とす。その感触に可奈子の胸は甘い期待でいっぱいになる。それなのに彼はいつもみたいにそれ以上先へ進もうとせずにただ微笑んでいるだけだ。
「可奈子、今夜はじっくり練習しよう」
「そんな……」
呟いて、可奈子は彼を見上げた。
すべての誤解が解けて夫婦の間のわだかまりがなくなった後、ふたりは一緒に彼が作ったカレーを食べた。わーわー騒いでとてもお腹がすいたからだ。彼特性のスパイシーな本格カレーはいつも以上に美味しくてふたりともおかわりをした。
その後風呂に入り、すっかり寝支度を整えて再びやってきた夫婦の寝室である。
部屋へ入った瞬間から、いやバスルームを出た時から可奈子の鼓動はスピードを上げていて、頬も身体も熱いままだ。明日はふたりとも休みだし、無事に仲直りもできたのだ。今夜は久しぶりに夫婦として触れ合うだろうことは明白だ。
いつもの彼ならベッドに上がるなり、優しく可奈子をリードして、可奈子がなにも言わなくてもすぐに心地のいい幸せな気持ちにさせてくれる。
それなのに今夜は少し違っていた。
「可奈子、どうして欲しいのか君の気持ちを言ってごらん?」
そう言って微笑んでいるのである。
可奈子のして欲しいことなどお見通しのはずなのにそんなことを言う彼に、可奈子は戸惑っている、というわけである。
可奈子の頬にキスをして、総司がそのわけを説明をする。
「可奈子、君があらぬ誤解をすることになった原因はふたつある。まずひとつは、君が俺に対してまだどこか遠慮していて、思ったことを言えないこと。だから日記を見てしまった時にそのままそれを俺に聞けなかった。聞いてくれれば、すぐに答えられたのに」
でもそれは仕方がないと可奈子は思う。彼はもともと雲の上の存在で夫になったからといってすぐに切り替えられるはずがない。
「そ、総司さんは、私にとっては上司でもあるんだから、遠慮があるのは当然だと思う」
「確かに」
総司は素直にうなずいて可奈子の前髪をサラリと撫でた。
「でももう夫婦なんだから、いつまでもそういうわけにはいかない。それは可奈子もわかったはずだ。だから練習をしよう。可奈子が考えていることを俺に伝えられる練習だ」
そう言って彼はこれ以上ないくらいに優雅に微笑む。どこか胡散くさいその笑みを、可奈子は信じられない思いで見つめた。
「そ、それはつまり……?」
「可奈子がなにをしてほしいのか、ちゃんと言葉にして伝えてくれ。ひとつひとつ可奈子の口から聞かせてほしい」
では彼は可奈子に言わせようとしているのだ。今頭の中を満たしている恥ずかしいこの欲求を。
「そそそそそんなことできるわけがないじゃない!」
可奈子は真っ赤になって首を振る。
いつもこのベッドで総司が可奈子にしてくれることが頭の中を駆け巡る。あれを全部言葉にするなんて、想像しただけで顔から火が出そうだった。
「可奈子、これは練習だ」
いたって真面目に総司は言う。
「可奈子の中から俺に対する遠慮を取っ払う。可奈子がどんな些細なことも俺に言えるようになったら、あんな悲しい思いはしなくてすむんだから」
総司の指が可奈子の唇をゆっくり辿る。その感触に、可奈子の背中は甘く痺れた。自分を見つめる少し茶色いきれいな瞳を見つめているうちに、そう言われてみればそんな気がしてくるから不思議だった。
ちゃんと彼に伝えられるようにならなくては、本当の夫婦にはなれない。
「可奈子?」
唇に触れる指が可奈子をもどかしい気持ちにさせる。指ではなくて彼の唇で触れてほしい、いつもはそうしてくれるのに。そんな思いで頭の中がいっぱいになっていく。
「ほら、どうしてほしいか言ってごらん? 可奈子」
可奈子を安心させるような優しくて穏やかな彼の声音に、可奈子は目を伏せて口を開いた。
「キ、キスを……してほしい」
「ん、よくできました」
まるで学校の先生のようにそう言って、彼は可奈子の望む通り唇にキスをする。柔らかな感触に可奈子の胸はとくんと跳ねるけれど、すぐにまた離れてしまう。
「え……?」
可奈子の口から声が漏れる。
総司が首を傾げた。
「望む通りにしたつもりだけど」
可奈子の思いなどお見通しのはずなのに、とぼけて見せるのが憎らしい。どうやら本当に彼は可奈子が言葉にしたことしかしないようだ。
「これじゃ、朝になっちゃいそう」
途方に暮れてそう言うと、総司がくっくと肩を揺らした。
「俺はそれでもいいけどね。可奈子との時間は長ければ長いほど嬉しいよ。なんなら一晩中かかったって大丈夫。焦ることはない」
「ひ、一晩中だなんて……!」
可奈子は声をあげる。こんなこと朝になるまで続けたら頭がおかしくなってしまいそうだ。
「総司さん、お願い……」
いつものようにしてほしいという思いを込めて可奈子は彼に懇願する。どんな時も優しかった彼ならば許してくれるかと思ったのだ。
それなのに、総司は可奈子の顎に手を添えてもっと先を促した。
「どんなキスをしてほしい? 言ってごらん。可奈子」
その微笑みに、これはダメだと可奈子は思う。今夜は自分のしてほしいことは本当に口にしなければ、してもらえそうにない。
可奈子はこくりと喉を鳴らして、ためらいながら口を開く。
「もっと……いっぱいしてほしい。いつもみたいなキスがいい」
消え入りそうな声でそう言ってギュッと目を閉じると、顎に添えられた手にそのまま上を向かせられる。
「よく言えました」
そして、可奈子が望んでいた深いキスが始まった。
「ん、んっ……」
ちゃんと言えたご褒美は、いつもより熱くてとびきり甘く感じた。可奈子は自分でも知らないうちに彼の動きに応えはじめる。自分を包む彼の腕をギュッと握って、火がつけられた自分の中の欲求にただ素直に従った。
身体の中心をとろかすような、熱くて激しいキスが何度も何度も繰り返される。
身体のあちこちが火がついたみたいに熱くなって、早く彼に触れてほしいと可奈子の脳に主張する。もどかしくて切なくて可奈子は身をよじる。キスだけでこんな風になってしまうのが恥ずかしくてたまらない。でも身体中を駆け巡る衝動はもう抑えることができなさそうだ。
ようやく唇が離れた頃には、可奈子の思考は、溶けきっていた。
可奈子の髪をかき上げて、総司がにっこり微笑んだ。
「次はどこにキスしてほしい?」
そして可奈子の耳を優しく掴み親指と人差し指ですりすりと合図する。その感覚に、誘われるままに口を開く。
「み、耳に……」
「ん、了解」
「んっ……!」
すぐ近くで感じる彼の吐息に可奈子の身体はぴくんと跳ねる。とっさに頭を振って一生懸命にその感覚から逃れようとするけれど、大きな手に頭を包み込むように抑えられて、叶わない。
「もうひとつ、可奈子が誤解することになった原因は……」
総司が可奈子の耳を食みながら唐突に話し出す。
「ダメ……! そこで話さないで……」
話の内容など頭に入ってくるはずもないのに、彼はやめてくれなかった。
「可奈子が誤解することになったのは、俺に愛されているのだということを信じきれていなかったからだ」
「あ、そ、そんなことな……い……」
「あるよ。俺が可奈子を利用している、愛していないなんてどうしてそんな発想になる? もう二度とそんな風に思わないように、どれだけ俺が可奈子を愛しているのか今夜はたっぷりおしえてやる。可奈子がしてほしいことは全部してあげるから」
そして耳への愛撫が本格的に開始する。
「んんんっ……!」
可奈子は無我夢中で彼にしがみつき、彼から与えられる熱が身体中を駆け巡る感覚に声をあげ続ける。真っ赤に染まる可奈子の耳がようやく解放された時はもはや息も絶え絶えだった。
いつのまにか可奈子の身体は、ベッドに横たえられて、パジャマのボタンは外されている。すっかり火がつけられた身体が、夫婦の寝室の少し冷たい空気にさらされる。
総司がそれを実に楽しげに見下ろしていた。そして人差し指で可奈子のお腹をつっと辿る。それだけで反応をしてしまいそうになるのをシーツを握りしめて可奈子は堪えた。
「次は、どこに触れてほしい? どんな風に触れてほしい? 言わないとしてあげないよ」
まるで心まで裸にされていくような気分だった。可奈子の中に隠している誰にも見せられない恥ずかしい想い。たくさんの守りに包まれているのに、彼はそれを一枚一枚剥ぎ取ってすべてを暴こうとしている。
「可奈子の口から聞きたいんだ。どこに触れてほしいのか。どんな風にしてほしいのか」
可奈子が日記を見たことで始まった彼への誤解。
それを、総司は笑って許してくれたはず。でも本当は怒っているのかもしれないと頭の片隅で可奈子は思う。だからこんなことを可奈子に強いているのだろう。
あるいは。
「言えたら、たくさんしてあげるよ。可奈子が俺の愛をもう疑うことがないくらいに」
そら恐ろしいくらいに美しく微笑む彼は、やはりスパイだったのだ。でなければこんな酷なことができるはずがない。
「可奈子?」
でももはや可奈子にはどうでもよかった。
これが罰だとしても彼がスパイでも、とにかく今すぐに触れてほしい。そんな想いで頭の中がいっぱいだから。
「あの……」
「うん」
「いっぱい触ってほしい。…………ここに」
「ん、よく言えたね」
これ以上ないくらいに優雅な笑みを浮かべて、総司の視線がゆっくりと降りてきた。
夫婦のための大きなベッドの上でヘッドボードにもたれかかって座っている可奈子の両脇に手をついてにっこりと微笑んで総司が言う。
可奈子は困り果てていた。
「でも……」
ためらう可奈子の頬に、総司は柔らかなキスを落とす。その感触に可奈子の胸は甘い期待でいっぱいになる。それなのに彼はいつもみたいにそれ以上先へ進もうとせずにただ微笑んでいるだけだ。
「可奈子、今夜はじっくり練習しよう」
「そんな……」
呟いて、可奈子は彼を見上げた。
すべての誤解が解けて夫婦の間のわだかまりがなくなった後、ふたりは一緒に彼が作ったカレーを食べた。わーわー騒いでとてもお腹がすいたからだ。彼特性のスパイシーな本格カレーはいつも以上に美味しくてふたりともおかわりをした。
その後風呂に入り、すっかり寝支度を整えて再びやってきた夫婦の寝室である。
部屋へ入った瞬間から、いやバスルームを出た時から可奈子の鼓動はスピードを上げていて、頬も身体も熱いままだ。明日はふたりとも休みだし、無事に仲直りもできたのだ。今夜は久しぶりに夫婦として触れ合うだろうことは明白だ。
いつもの彼ならベッドに上がるなり、優しく可奈子をリードして、可奈子がなにも言わなくてもすぐに心地のいい幸せな気持ちにさせてくれる。
それなのに今夜は少し違っていた。
「可奈子、どうして欲しいのか君の気持ちを言ってごらん?」
そう言って微笑んでいるのである。
可奈子のして欲しいことなどお見通しのはずなのにそんなことを言う彼に、可奈子は戸惑っている、というわけである。
可奈子の頬にキスをして、総司がそのわけを説明をする。
「可奈子、君があらぬ誤解をすることになった原因はふたつある。まずひとつは、君が俺に対してまだどこか遠慮していて、思ったことを言えないこと。だから日記を見てしまった時にそのままそれを俺に聞けなかった。聞いてくれれば、すぐに答えられたのに」
でもそれは仕方がないと可奈子は思う。彼はもともと雲の上の存在で夫になったからといってすぐに切り替えられるはずがない。
「そ、総司さんは、私にとっては上司でもあるんだから、遠慮があるのは当然だと思う」
「確かに」
総司は素直にうなずいて可奈子の前髪をサラリと撫でた。
「でももう夫婦なんだから、いつまでもそういうわけにはいかない。それは可奈子もわかったはずだ。だから練習をしよう。可奈子が考えていることを俺に伝えられる練習だ」
そう言って彼はこれ以上ないくらいに優雅に微笑む。どこか胡散くさいその笑みを、可奈子は信じられない思いで見つめた。
「そ、それはつまり……?」
「可奈子がなにをしてほしいのか、ちゃんと言葉にして伝えてくれ。ひとつひとつ可奈子の口から聞かせてほしい」
では彼は可奈子に言わせようとしているのだ。今頭の中を満たしている恥ずかしいこの欲求を。
「そそそそそんなことできるわけがないじゃない!」
可奈子は真っ赤になって首を振る。
いつもこのベッドで総司が可奈子にしてくれることが頭の中を駆け巡る。あれを全部言葉にするなんて、想像しただけで顔から火が出そうだった。
「可奈子、これは練習だ」
いたって真面目に総司は言う。
「可奈子の中から俺に対する遠慮を取っ払う。可奈子がどんな些細なことも俺に言えるようになったら、あんな悲しい思いはしなくてすむんだから」
総司の指が可奈子の唇をゆっくり辿る。その感触に、可奈子の背中は甘く痺れた。自分を見つめる少し茶色いきれいな瞳を見つめているうちに、そう言われてみればそんな気がしてくるから不思議だった。
ちゃんと彼に伝えられるようにならなくては、本当の夫婦にはなれない。
「可奈子?」
唇に触れる指が可奈子をもどかしい気持ちにさせる。指ではなくて彼の唇で触れてほしい、いつもはそうしてくれるのに。そんな思いで頭の中がいっぱいになっていく。
「ほら、どうしてほしいか言ってごらん? 可奈子」
可奈子を安心させるような優しくて穏やかな彼の声音に、可奈子は目を伏せて口を開いた。
「キ、キスを……してほしい」
「ん、よくできました」
まるで学校の先生のようにそう言って、彼は可奈子の望む通り唇にキスをする。柔らかな感触に可奈子の胸はとくんと跳ねるけれど、すぐにまた離れてしまう。
「え……?」
可奈子の口から声が漏れる。
総司が首を傾げた。
「望む通りにしたつもりだけど」
可奈子の思いなどお見通しのはずなのに、とぼけて見せるのが憎らしい。どうやら本当に彼は可奈子が言葉にしたことしかしないようだ。
「これじゃ、朝になっちゃいそう」
途方に暮れてそう言うと、総司がくっくと肩を揺らした。
「俺はそれでもいいけどね。可奈子との時間は長ければ長いほど嬉しいよ。なんなら一晩中かかったって大丈夫。焦ることはない」
「ひ、一晩中だなんて……!」
可奈子は声をあげる。こんなこと朝になるまで続けたら頭がおかしくなってしまいそうだ。
「総司さん、お願い……」
いつものようにしてほしいという思いを込めて可奈子は彼に懇願する。どんな時も優しかった彼ならば許してくれるかと思ったのだ。
それなのに、総司は可奈子の顎に手を添えてもっと先を促した。
「どんなキスをしてほしい? 言ってごらん。可奈子」
その微笑みに、これはダメだと可奈子は思う。今夜は自分のしてほしいことは本当に口にしなければ、してもらえそうにない。
可奈子はこくりと喉を鳴らして、ためらいながら口を開く。
「もっと……いっぱいしてほしい。いつもみたいなキスがいい」
消え入りそうな声でそう言ってギュッと目を閉じると、顎に添えられた手にそのまま上を向かせられる。
「よく言えました」
そして、可奈子が望んでいた深いキスが始まった。
「ん、んっ……」
ちゃんと言えたご褒美は、いつもより熱くてとびきり甘く感じた。可奈子は自分でも知らないうちに彼の動きに応えはじめる。自分を包む彼の腕をギュッと握って、火がつけられた自分の中の欲求にただ素直に従った。
身体の中心をとろかすような、熱くて激しいキスが何度も何度も繰り返される。
身体のあちこちが火がついたみたいに熱くなって、早く彼に触れてほしいと可奈子の脳に主張する。もどかしくて切なくて可奈子は身をよじる。キスだけでこんな風になってしまうのが恥ずかしくてたまらない。でも身体中を駆け巡る衝動はもう抑えることができなさそうだ。
ようやく唇が離れた頃には、可奈子の思考は、溶けきっていた。
可奈子の髪をかき上げて、総司がにっこり微笑んだ。
「次はどこにキスしてほしい?」
そして可奈子の耳を優しく掴み親指と人差し指ですりすりと合図する。その感覚に、誘われるままに口を開く。
「み、耳に……」
「ん、了解」
「んっ……!」
すぐ近くで感じる彼の吐息に可奈子の身体はぴくんと跳ねる。とっさに頭を振って一生懸命にその感覚から逃れようとするけれど、大きな手に頭を包み込むように抑えられて、叶わない。
「もうひとつ、可奈子が誤解することになった原因は……」
総司が可奈子の耳を食みながら唐突に話し出す。
「ダメ……! そこで話さないで……」
話の内容など頭に入ってくるはずもないのに、彼はやめてくれなかった。
「可奈子が誤解することになったのは、俺に愛されているのだということを信じきれていなかったからだ」
「あ、そ、そんなことな……い……」
「あるよ。俺が可奈子を利用している、愛していないなんてどうしてそんな発想になる? もう二度とそんな風に思わないように、どれだけ俺が可奈子を愛しているのか今夜はたっぷりおしえてやる。可奈子がしてほしいことは全部してあげるから」
そして耳への愛撫が本格的に開始する。
「んんんっ……!」
可奈子は無我夢中で彼にしがみつき、彼から与えられる熱が身体中を駆け巡る感覚に声をあげ続ける。真っ赤に染まる可奈子の耳がようやく解放された時はもはや息も絶え絶えだった。
いつのまにか可奈子の身体は、ベッドに横たえられて、パジャマのボタンは外されている。すっかり火がつけられた身体が、夫婦の寝室の少し冷たい空気にさらされる。
総司がそれを実に楽しげに見下ろしていた。そして人差し指で可奈子のお腹をつっと辿る。それだけで反応をしてしまいそうになるのをシーツを握りしめて可奈子は堪えた。
「次は、どこに触れてほしい? どんな風に触れてほしい? 言わないとしてあげないよ」
まるで心まで裸にされていくような気分だった。可奈子の中に隠している誰にも見せられない恥ずかしい想い。たくさんの守りに包まれているのに、彼はそれを一枚一枚剥ぎ取ってすべてを暴こうとしている。
「可奈子の口から聞きたいんだ。どこに触れてほしいのか。どんな風にしてほしいのか」
可奈子が日記を見たことで始まった彼への誤解。
それを、総司は笑って許してくれたはず。でも本当は怒っているのかもしれないと頭の片隅で可奈子は思う。だからこんなことを可奈子に強いているのだろう。
あるいは。
「言えたら、たくさんしてあげるよ。可奈子が俺の愛をもう疑うことがないくらいに」
そら恐ろしいくらいに美しく微笑む彼は、やはりスパイだったのだ。でなければこんな酷なことができるはずがない。
「可奈子?」
でももはや可奈子にはどうでもよかった。
これが罰だとしても彼がスパイでも、とにかく今すぐに触れてほしい。そんな想いで頭の中がいっぱいだから。
「あの……」
「うん」
「いっぱい触ってほしい。…………ここに」
「ん、よく言えたね」
これ以上ないくらいに優雅な笑みを浮かべて、総司の視線がゆっくりと降りてきた。