敏腕パイロットは純真妻を溢れる独占愛で包囲する
ビニール傘は入口付近にあるけれど、手には取らずに意味もなくコンビニの中をウロウロする。
まったく経験したことがない感覚に、落ち着かない気分だった。
はじめて話をした総司は見た目が完璧だというだけでなく、親切で紳士的でそしてなによりも気さくな人柄だった。
CAたちが騒ぐのも納得だ。
パイロットとはかかわらないと固く心に決めたことも忘れて、可奈子は彼との時間を楽しんだ。あろうことか、もっと話をしたいと思ってしまったのだ。
少し頭を冷やさなくては。
可奈子は冷たいお茶を手に取りレジへ向かう。
なんだかこれからひとりでラーメンを食べるのがひどくつまらないことのように感じた。
常連客しか行けないというもつ鍋の店も、世界中にあるという彼の行きつけの店の話も、勤務時間中には見られないであろう彼の笑顔も、どれも魅力的だった。
もしさっき、可奈子の方から一緒に食事に連れて行ってほしいと頼んだら、彼はオーケーしてくれただろうか。
楽しい時間を過ごせたのだろうか。
いや無理に決まってると可奈子はその考えを打ち消した。その可能性はゼロだろう。
なにしろ彼は、あの美しいCAたちがいくら誘っても食事の場には来ないのだ。断られるに決まっている。
無意味なことを考えるのはよそうと、ため息をつきながら可奈子はコンビニを出ようとする。そこへまた声をかけられた。
「伊東さん」
先を行ったはずの総司だった。
「如月さん⁉︎」
買ったばかりのお茶を抱きながら可奈子は目を丸くする。てっきりもう行ってしまったと思ったのに。
「君が行くと言っていた通りの向こう側に、女の子は行かない方がいいエリアがあったのを思い出して、伝えておこうと思ったんだ」
総司が可奈子のお茶を見て不思議そうに目を瞬かせた。
「傘は買わなかったの?」
「え? ……あ! わ、忘れてた!」
可奈子は声をあげて真っ赤になる。
火照った頬とドキドキを落ち着かせなくてはということに気を取られて、肝心の物を買い忘れてしまっていた。
総司がくっくと肩を揺らした。
「伊東さん、勤務中はミスなく一生懸命やってくれてるけど、普段は意外と抜けてるんだね。それともなにか気になることでもあった?」
もう可奈子のドキドキは止まらなくなってしまう。
仕事のことを褒められたことも、もう見られないだろうと思っていた彼の笑顔を、思いがけずまた見られたことも嬉しかった。
「あ、あの……な、なにを食べようかなーってことで頭がいっぱいで。やっぱりもつ鍋羨ましいな、なんて思って……」
まさか"あなたのことを考えていました"
と言うわけにもいかなくて、可奈子はあたふたと適当な言葉を口にする。
総司が笑いながら、それに応じた。
「そんなにもつ鍋食べたいんだ。じゃあ……今から俺と一緒に行く? 味は保証するよ」
「え? い……、……ええ⁉︎」
絶対に無理だと思っていたことをさらりと提案されてしまい、可奈子はここがコンビニの前だということも忘れて、大きな声を出してしまう。
頭の中はプチパニック状態だ。
総司が肩をすくめた。
「もちろん、俺と一緒が嫌じゃなければ、の話だが」
「そ、そんなこと思いません! で、でも、如月さんはステイの食事はひとりって決めてるって……!」
「べつに決めてるわけじゃないよ、楽しく過ごせそうなら、なんでもいい」
唖然としながらも、可奈子の胸はキュンと跳ねる。
CAとの食事は必ず断るという人が、これじゃあまるで可奈子となら楽しく過ごせるとでも言っているみたいじゃないか。
「もちろん気を使うなら断ってくれてかまわない。君は、ひとりで食べる方が気楽だとさっき言っていたしね。無理強いはしないよ」
そう言って総司はにっこりと微笑んだ。
彼のこの少し茶色い綺麗な瞳に見つめられて、断れる女性がこの世に存在するのだろうか。
冷たいお茶を抱きしめて、可奈子はゆっくり頷いた。
「ご、ご一緒させてください」
まったく経験したことがない感覚に、落ち着かない気分だった。
はじめて話をした総司は見た目が完璧だというだけでなく、親切で紳士的でそしてなによりも気さくな人柄だった。
CAたちが騒ぐのも納得だ。
パイロットとはかかわらないと固く心に決めたことも忘れて、可奈子は彼との時間を楽しんだ。あろうことか、もっと話をしたいと思ってしまったのだ。
少し頭を冷やさなくては。
可奈子は冷たいお茶を手に取りレジへ向かう。
なんだかこれからひとりでラーメンを食べるのがひどくつまらないことのように感じた。
常連客しか行けないというもつ鍋の店も、世界中にあるという彼の行きつけの店の話も、勤務時間中には見られないであろう彼の笑顔も、どれも魅力的だった。
もしさっき、可奈子の方から一緒に食事に連れて行ってほしいと頼んだら、彼はオーケーしてくれただろうか。
楽しい時間を過ごせたのだろうか。
いや無理に決まってると可奈子はその考えを打ち消した。その可能性はゼロだろう。
なにしろ彼は、あの美しいCAたちがいくら誘っても食事の場には来ないのだ。断られるに決まっている。
無意味なことを考えるのはよそうと、ため息をつきながら可奈子はコンビニを出ようとする。そこへまた声をかけられた。
「伊東さん」
先を行ったはずの総司だった。
「如月さん⁉︎」
買ったばかりのお茶を抱きながら可奈子は目を丸くする。てっきりもう行ってしまったと思ったのに。
「君が行くと言っていた通りの向こう側に、女の子は行かない方がいいエリアがあったのを思い出して、伝えておこうと思ったんだ」
総司が可奈子のお茶を見て不思議そうに目を瞬かせた。
「傘は買わなかったの?」
「え? ……あ! わ、忘れてた!」
可奈子は声をあげて真っ赤になる。
火照った頬とドキドキを落ち着かせなくてはということに気を取られて、肝心の物を買い忘れてしまっていた。
総司がくっくと肩を揺らした。
「伊東さん、勤務中はミスなく一生懸命やってくれてるけど、普段は意外と抜けてるんだね。それともなにか気になることでもあった?」
もう可奈子のドキドキは止まらなくなってしまう。
仕事のことを褒められたことも、もう見られないだろうと思っていた彼の笑顔を、思いがけずまた見られたことも嬉しかった。
「あ、あの……な、なにを食べようかなーってことで頭がいっぱいで。やっぱりもつ鍋羨ましいな、なんて思って……」
まさか"あなたのことを考えていました"
と言うわけにもいかなくて、可奈子はあたふたと適当な言葉を口にする。
総司が笑いながら、それに応じた。
「そんなにもつ鍋食べたいんだ。じゃあ……今から俺と一緒に行く? 味は保証するよ」
「え? い……、……ええ⁉︎」
絶対に無理だと思っていたことをさらりと提案されてしまい、可奈子はここがコンビニの前だということも忘れて、大きな声を出してしまう。
頭の中はプチパニック状態だ。
総司が肩をすくめた。
「もちろん、俺と一緒が嫌じゃなければ、の話だが」
「そ、そんなこと思いません! で、でも、如月さんはステイの食事はひとりって決めてるって……!」
「べつに決めてるわけじゃないよ、楽しく過ごせそうなら、なんでもいい」
唖然としながらも、可奈子の胸はキュンと跳ねる。
CAとの食事は必ず断るという人が、これじゃあまるで可奈子となら楽しく過ごせるとでも言っているみたいじゃないか。
「もちろん気を使うなら断ってくれてかまわない。君は、ひとりで食べる方が気楽だとさっき言っていたしね。無理強いはしないよ」
そう言って総司はにっこりと微笑んだ。
彼のこの少し茶色い綺麗な瞳に見つめられて、断れる女性がこの世に存在するのだろうか。
冷たいお茶を抱きしめて、可奈子はゆっくり頷いた。
「ご、ご一緒させてください」