一夜限りと思ったワンコ系男子との正しい恋愛の始め方
「あの、それじゃあ」
ここから逃げ出したい気持ちになり、美晴が歩こうとする。
「ちょっと待って」
井草が尻ポケットからハンカチを差し出した。
「これ、使って下さい。あとそこの襟元、コーヒー付いているんで、クリーニングを」
そう言われて、美晴は慌てて自分の襟元に視線を動かす。無地のカーキ色のカットソー。夏にも関わらずそんな色合いでいたせいで、コーヒーが飛んだ跡もそこまで目立っていない。さらに視線を下ろすと白いスカートが目に入り、染みが付いていないか確認した。幸いにもこちらは無傷だ。
「あの、」
それでも差し出されたハンカチを無言で見つめる。大柄な男性が差し出すと、例え紳士物であっても小さく感じるのだなと、とっさに思った。そしてこのハンカチを受け取るべきかを悩んでしまう。ハンカチの必要性だけをいうのなら、たった今自分のハンドタオルで口元を拭ったところだ。人から借りなくても間に合っている。突然の親切を受け入れるのか、拒否するのか。判断をせまられ戸惑っていると、井草が言葉を重ねた。
「クリーニング代渡します」
そして言った瞬間に、息を呑む。
「あ、財布。持ってきてない」
スマホを握りしめたまま表情を無くす井草の顔を見て、美晴の肩の力が抜けた。確かにお昼を買いに行くくらいなら、電子マネーで決済すればいいので財布を持ち歩かないのだろう。元のイメージが牧羊犬なせいか、淡々とした態度ながらこういううっかりとしたところに、可愛げを感じてしまう。
ここから逃げ出したい気持ちになり、美晴が歩こうとする。
「ちょっと待って」
井草が尻ポケットからハンカチを差し出した。
「これ、使って下さい。あとそこの襟元、コーヒー付いているんで、クリーニングを」
そう言われて、美晴は慌てて自分の襟元に視線を動かす。無地のカーキ色のカットソー。夏にも関わらずそんな色合いでいたせいで、コーヒーが飛んだ跡もそこまで目立っていない。さらに視線を下ろすと白いスカートが目に入り、染みが付いていないか確認した。幸いにもこちらは無傷だ。
「あの、」
それでも差し出されたハンカチを無言で見つめる。大柄な男性が差し出すと、例え紳士物であっても小さく感じるのだなと、とっさに思った。そしてこのハンカチを受け取るべきかを悩んでしまう。ハンカチの必要性だけをいうのなら、たった今自分のハンドタオルで口元を拭ったところだ。人から借りなくても間に合っている。突然の親切を受け入れるのか、拒否するのか。判断をせまられ戸惑っていると、井草が言葉を重ねた。
「クリーニング代渡します」
そして言った瞬間に、息を呑む。
「あ、財布。持ってきてない」
スマホを握りしめたまま表情を無くす井草の顔を見て、美晴の肩の力が抜けた。確かにお昼を買いに行くくらいなら、電子マネーで決済すればいいので財布を持ち歩かないのだろう。元のイメージが牧羊犬なせいか、淡々とした態度ながらこういううっかりとしたところに、可愛げを感じてしまう。