一夜限りと思ったワンコ系男子との正しい恋愛の始め方
「あれから五ヶ月弱経過して仕事も落ち着いて、ようやく立ち止まって考えることが出来るようになりました。でもそうすると、彼との関係がこうなってしまったのって、私のせいだったのかなって」
「二股かけたのも、開き直ったのも、男の方じゃないですか」
「でも、そうさせたのは私の方だったのかなぁって、だんだんと思うようになって 」

 コーヒーを飲んで、月を見上げる。

「一ヶ月に一回というのも、もうちょっと回数増やせたと思うんです。好きだ会いたいという気持ちを大切にして、なりふり構わず行動すれば。でもつい見栄を張ってしまって。仕事でボロボロになっている姿を見せたくなかったんですよね。会うためのお洒落とか準備とか、あと気力。それに相手の都合も擦り合わせると、月一回会うのがやっとだった。そうすると、たまにしか会えない分一緒にいたくて甘えたくて、気がつくとお泊りしてヤルことだけになってしまって」

 そこまで言って、ふと先程の中華料理屋を思い出す。はた迷惑な夫婦喧嘩ではあったけれど、お互いの感情をさらけ出すことは出来ていた。みっともないところを見せたくなくて取り繕った挙げ句に別れた美晴とは正反対だ。

「彼のことが好きで会っていたのか、彼の言うとおりストレス発散でヤルためだけに会っていたのか、これじゃ分からないよねって思って」
「だから、別の男と寝れば分かるかと思った?」
「……馬鹿なことをしました。巻き込んでしまって、本当に申し訳ないです」

 頭を下げて、美晴が謝る。少しの沈黙の後、そんな彼女の頭上にぽつりと健斗の声が落ちた。

「俺は、嬉しかったです」
「え?」

 反射的に聞き返し、美晴が顔を上げて健斗を見る。その視線を受けて、健斗も真っ直ぐ美晴を見返した。

「俺、美晴さんが好きです」
「え」
「だから誘われて、それに舞い上がって、全力で乗っかりました」
「……えっと、」

 健斗からの好意は感じていたが、それが恋愛感情だと言い切れるものと美晴は思っていなかった。下手に牧羊犬のイメージで接していたからかもしれない。今まで自分が先に好きになるパターンの恋愛ばかりしてきたせいかもしれない。すっかり油断していたところに不意打ちを食らって口ごもる。なにか言わなければと口を開くが、それを止めるように健斗は首を振ると、告白を続けた。

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