一夜限りと思ったワンコ系男子との正しい恋愛の始め方
「付き合って、俺のことを知ってもらいたい。好きになって欲しいけど、それは俺が努力するので先ずは知り合うところから。だから、美晴さんが俺を好きになってくれるまで、指一本触れないようにします」
「え、いいんですか?」

 思わず反射的に聞き返すと、健斗が苦しそうに眉を寄せ、それから息を吐き出した。

「このまま、なし崩しに先に進んで単なるセフレで終わるよりかは、いいです」

 その言葉に、彼の本気度が伺える。けれどそれを素直に受け止めるだけの心のゆとりは、美晴には無かった。

「そこまで、思われるような人間じゃないですよ、私……」

 相手の気持を考えず、自分が試したいだけで誘いを掛けた。今、その相手から告白されたからこそ、自分の身勝手さをより一層思い知る。果たして健斗の純粋な好意に自分が応えることが出来るのか、正直言って自信が無い。

「いいんです。俺が、勝手に好きになっているだけだから」

 きっぱりと言い切ると、健斗はアイスコーヒーを一気にあおって飲み干した。そしてその勢いのまま、美晴に提案をする。

「とりあえず来週、一緒に飯食いに行くのどうですか?」
「あ、生麺パスタ」

 健斗がうっかり一週間後で予約したイタリアン・レストランを思い出し、とっさに美晴は顔を上げた。途端に自分を見つめる視線に絡みとられる。大柄な牧羊犬の様な男が、美晴が返事をするのをただひたすら息を詰めて待っていた。

「付き合ってみて、お互いを知り合うところから、始めさせてください」
「井草さん……」

< 38 / 97 >

この作品をシェア

pagetop