一夜限りと思ったワンコ系男子との正しい恋愛の始め方
 ――彼との関係がこうなってしまったのって、私のせいだったのかなって。

 そう漏らした時の美晴の表情を思い出す。迷子になった子供のように頼りなく、不安と心の痛みに耐えていた。あんなふうに美晴を傷付け、セフレ扱いした男を健斗は許せない。

「……美晴さん、あの元上司と同じとこに戻るんですよね」

 心配が口をついて出てしまった。

「部署が違うから、めったに会わないと思うよ」

 スマホを眺めながら美晴が言う。そして顔を上げ健斗を見つめると、にこりと微笑んだ。

「もう大丈夫だから」

 心配させまいとして浮かべる笑顔。知り合って、二人で話をするうちに、美晴は色んな表情を見せるようになった。

「俺、美晴さんの笑ってる顔が見たいです」
「え? はい」

 突然の健斗の要望に、美晴が戸惑い返事した。

「でもそれは口の端上げて作っているやつじゃなくて、自然なのがいい」
「それは……」
「最初は差がよく分からなかったけど、美晴さんが俺に自然に笑ってくれるようになったから、分かるようになったんだ」

 コンビニ店内で見かけたあの笑顔は、誰にでも見せる標準装備のもの。それでもあの笑顔に魅せられて、健斗は美晴のことを好きになった。だから、もっと色んな笑顔を見たいと思うし、自分にだけ見せる表情があればより一層よいと思う。

「とりあえず俺がしたいのは、美晴さんを笑顔にすることだから」

 そう言って美晴を真っ直ぐに見つめる。それを受けた美晴は戸惑いのまま視線を揺らすと、思いついたように健斗を見返した。

「それなら健斗も行きたいとこ、案出して」
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