一夜限りと思ったワンコ系男子との正しい恋愛の始め方
「行きたいとこ?」
「そう。私だけ案出させるんじゃなくて、ちゃんと自分の行きたいところも主張してくれないと」
スマホの検索画面を健斗に見せるようにぐいっと差しだし、ニヤリと笑った美晴が問いかける。
「どこに行きたい?」
こうして次週は美術館、再来週は山へハイキングが決まった。
「――そこの山って登るとビアガーデンがあって、帰りはロープウェイで下山出来るんだったよね?」
「美晴さん、分かっていると思うけど、ビアガーデンで禁酒の苦行はしたくないから。食事は山頂の茶屋で名物のとろろ蕎麦、の一択でお願いします」
「はーい」
そんな話で盛り上がり、この日はお開きとなった。
◇◇◇◇◇◇
美晴との週末デートは順調に回を重ね、気が付けば九月最終週の日曜日となった。今日の予定は、美晴の後輩がいるという市民フィルの昼の演奏会だ。
クラシック音楽の演奏会など、健斗は中学生の頃に学校単位で行った覚えしかない。どんな格好をして行ったらよいか正直分からない、と美晴に告白すると、いつもの格好で大丈夫と言われた。その言葉を信じ、いつもと変わり映えのないラフな格好で出かける。まだ残暑は厳しいので白Tシャツに紺のパンツ、それに紺のジャケットを手に抱え、いざとなったら羽織って誤魔化すスタイルだ。
会場最寄りの駅で待っていると、約束の時間に美晴があらわれた。先ず目に付いたのは秋らしいボルドー色のカシュクールワンピース。くるぶしまでのロング丈で、ふわりと柔らかい雰囲気が美晴によく似合っている。髪型も、真っ直ぐでさらさらとした肩までのボブヘアが後ろでゆるく編み込まれ一つに束ねられて、いつもとは違う雰囲気を醸している。今日の主役に渡すのだろう小さな花束が紙袋から覗いて見えて、それがよりいっそう華やかさを印象づけていた。
「お待たせ」
「ワンピース、いいですね」
本当は美晴自身を褒めたかったのに、つい洋服だけを褒めてしまった。心の中で健斗がそう反省するが、それでも美晴の頬がぽっと赤くなる。
「ありがとう。久し振りにワンピース買ったから、褒められると嬉しい」
「そういえば、初めての食事のときにも着てましたよね、花柄の」
「うん。あれ買って以来かな。カジュアルなんだけどちょっとだけかしこまりたい、って時にワンピースは便利なんだよね」
「男にとってのジャケットみたいなものか」
「そうなのかな。でも健斗のその格好もいいよ。上背があって体幹がしっかりしているから、何着ても似合う」
まさか自分が褒め返されるとは思わず、健斗が耐えきれなくて歩き出す。
「えっと、行きましょうか」
「うん」
笑いながら、美晴も歩き出した。
「そう。私だけ案出させるんじゃなくて、ちゃんと自分の行きたいところも主張してくれないと」
スマホの検索画面を健斗に見せるようにぐいっと差しだし、ニヤリと笑った美晴が問いかける。
「どこに行きたい?」
こうして次週は美術館、再来週は山へハイキングが決まった。
「――そこの山って登るとビアガーデンがあって、帰りはロープウェイで下山出来るんだったよね?」
「美晴さん、分かっていると思うけど、ビアガーデンで禁酒の苦行はしたくないから。食事は山頂の茶屋で名物のとろろ蕎麦、の一択でお願いします」
「はーい」
そんな話で盛り上がり、この日はお開きとなった。
◇◇◇◇◇◇
美晴との週末デートは順調に回を重ね、気が付けば九月最終週の日曜日となった。今日の予定は、美晴の後輩がいるという市民フィルの昼の演奏会だ。
クラシック音楽の演奏会など、健斗は中学生の頃に学校単位で行った覚えしかない。どんな格好をして行ったらよいか正直分からない、と美晴に告白すると、いつもの格好で大丈夫と言われた。その言葉を信じ、いつもと変わり映えのないラフな格好で出かける。まだ残暑は厳しいので白Tシャツに紺のパンツ、それに紺のジャケットを手に抱え、いざとなったら羽織って誤魔化すスタイルだ。
会場最寄りの駅で待っていると、約束の時間に美晴があらわれた。先ず目に付いたのは秋らしいボルドー色のカシュクールワンピース。くるぶしまでのロング丈で、ふわりと柔らかい雰囲気が美晴によく似合っている。髪型も、真っ直ぐでさらさらとした肩までのボブヘアが後ろでゆるく編み込まれ一つに束ねられて、いつもとは違う雰囲気を醸している。今日の主役に渡すのだろう小さな花束が紙袋から覗いて見えて、それがよりいっそう華やかさを印象づけていた。
「お待たせ」
「ワンピース、いいですね」
本当は美晴自身を褒めたかったのに、つい洋服だけを褒めてしまった。心の中で健斗がそう反省するが、それでも美晴の頬がぽっと赤くなる。
「ありがとう。久し振りにワンピース買ったから、褒められると嬉しい」
「そういえば、初めての食事のときにも着てましたよね、花柄の」
「うん。あれ買って以来かな。カジュアルなんだけどちょっとだけかしこまりたい、って時にワンピースは便利なんだよね」
「男にとってのジャケットみたいなものか」
「そうなのかな。でも健斗のその格好もいいよ。上背があって体幹がしっかりしているから、何着ても似合う」
まさか自分が褒め返されるとは思わず、健斗が耐えきれなくて歩き出す。
「えっと、行きましょうか」
「うん」
笑いながら、美晴も歩き出した。