一夜限りと思ったワンコ系男子との正しい恋愛の始め方
「だって、夜会わないんですよ。かといって昼からホテル行くんじゃないんですよね。つまりエッチ無しなのに毎週末会うって、どんだけ真剣なお付き合いしているんですかってことですよ!」

 解説されて、今度は美晴が目を見開く番だった。

「そういう、こと……?」
「そういうことでしょ。美晴さん、気付いてー」

 ニヤニヤとした表情を隠しもせず、理恵が美晴を肘で突付く。されるがままになりながら、美晴はひどく動揺していた。

 先ずは段階を踏んで知り合うところから始めよう、と言ったのは健斗だった。来週も、どこか行く? そう聞いて毎週末会うことにしたのは美晴だった。自分に指一本触れることなく接する、そんな健斗の思いやりに乗っかって、単純に遊びに出かけることが楽しかったのだ。

 そうして一緒に過ごすうち、健斗の側にいることに美晴は馴染んでいった。隣りにいるのが自分で良いのか密かに自問するくらい、美晴の中で健斗は大きな存在となっていた。

 真剣なお付き合い。

 たった今言われた言葉を心の中で反すうして、無意識に口元を押さえてしまう。頬が熱くなるのを感じていた。

「美晴さん、自覚なし? 覚悟決めちゃいましょうよ」
「理恵ちゃん、もういいから」

 健斗とのことについてなにも知らないのに、遠目でしか彼のことを見ていないのに、理恵は的確な言葉を見出しては美晴の気持ちを浮かび上がらせてゆく。そのスピードについていけない。

「今度、彼氏さんともお話させてくださいね。あとついでに、私にも出会いをよろしくおねがいします。今日は本当にありがとうございました」
「うん。また明日、会社でね」

 なんとか挨拶をすると、健斗のもとに戻ってゆく。そんな美晴の動きを健斗がじっと見守っていた。表情は変わらないのに、後ろで尻尾を振られている気配がする。それだけでこそばゆくて、でも嬉しい気持ちが美晴の心を満たす。

「ごめんね、待たせてしまって」
「まだ話し足りないとかは?」
「大丈夫。どうせ明日も会社で会うんだし」

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