一夜限りと思ったワンコ系男子との正しい恋愛の始め方
「ここ?」
「ええ、ここ」
木枠で摺りガラスの引き戸のついた、モルタル一軒家。まるで昭和の赤ちょうちん酒場のようだが、引き戸の上に小さな手作りの看板が掛かっていて『お弁当 和ちゃん』と書かれている。今はランチタイムのためかその戸が開いており、中が覗ける。店内はカウンターとその奥にキッチンしかなく、そのカウンターにお弁当が敷き詰められていた。
「いらっしゃーい」
七十は超えてそうな老夫婦がカウンターの向こうにいて、二人が入って来たのを見て挨拶をする。狭い店内にはすでに客が数人いて、カウンターに置かれた弁当や惣菜を選び取ると、レジに並んでいた。
「昔からあるお弁当屋さんなんです。とにかく量が多くておかずの種類が豊富でなおかつ安くて、女性だとお肉系のお弁当はちょっと食べ切れないくらい」
美晴がそう説明しながら隣に立つ井草を見上げると、すでに彼の目は並べられた弁当に釘付けだった。
「女子向けって訳ではないだろうけど、ここ、おにぎりも売っていてそれがまた美味しいんですよ。量もコンビニおにぎりの確実に1.5倍はあって、しかも鮭とか焼いてほぐしたのがそのまま入っている感じで豪華で」
「これ、……スゴイですね」
「でしょ? いつもコンビニでおにぎり買っているの見かけて、体大きいのにそれで足りるのかなぁって思ってたんです」
「え」
驚いたように振り向かれたので、美晴もつられてビクッとしてしまった。
「俺のことですか?」
「あ、ごめんなさい。別に観察していた訳では無いんですけど、いつも二人で楽しそうにおにぎりの具について話していたから」
「いえ、その……」
慌てて言い訳をすると、なぜか井草も動揺したように視線を揺らした。
「取り敢えず、良かったらここで買ってみます?」
「買います。ちょっと待ってもらっていいですか」
「それなら私、お店の外で待っているんで」
そうして美晴が待っていると、程なくして弁当を買った井草が店から出てきた。
「いいお店を教えていただき、ありがとうございます。こっち方面には行かないんで、こんなお店があるとは知りませんでした」
「お役に立てたなら何よりです。それじゃ」
「あのっ」
「ええ、ここ」
木枠で摺りガラスの引き戸のついた、モルタル一軒家。まるで昭和の赤ちょうちん酒場のようだが、引き戸の上に小さな手作りの看板が掛かっていて『お弁当 和ちゃん』と書かれている。今はランチタイムのためかその戸が開いており、中が覗ける。店内はカウンターとその奥にキッチンしかなく、そのカウンターにお弁当が敷き詰められていた。
「いらっしゃーい」
七十は超えてそうな老夫婦がカウンターの向こうにいて、二人が入って来たのを見て挨拶をする。狭い店内にはすでに客が数人いて、カウンターに置かれた弁当や惣菜を選び取ると、レジに並んでいた。
「昔からあるお弁当屋さんなんです。とにかく量が多くておかずの種類が豊富でなおかつ安くて、女性だとお肉系のお弁当はちょっと食べ切れないくらい」
美晴がそう説明しながら隣に立つ井草を見上げると、すでに彼の目は並べられた弁当に釘付けだった。
「女子向けって訳ではないだろうけど、ここ、おにぎりも売っていてそれがまた美味しいんですよ。量もコンビニおにぎりの確実に1.5倍はあって、しかも鮭とか焼いてほぐしたのがそのまま入っている感じで豪華で」
「これ、……スゴイですね」
「でしょ? いつもコンビニでおにぎり買っているの見かけて、体大きいのにそれで足りるのかなぁって思ってたんです」
「え」
驚いたように振り向かれたので、美晴もつられてビクッとしてしまった。
「俺のことですか?」
「あ、ごめんなさい。別に観察していた訳では無いんですけど、いつも二人で楽しそうにおにぎりの具について話していたから」
「いえ、その……」
慌てて言い訳をすると、なぜか井草も動揺したように視線を揺らした。
「取り敢えず、良かったらここで買ってみます?」
「買います。ちょっと待ってもらっていいですか」
「それなら私、お店の外で待っているんで」
そうして美晴が待っていると、程なくして弁当を買った井草が店から出てきた。
「いいお店を教えていただき、ありがとうございます。こっち方面には行かないんで、こんなお店があるとは知りませんでした」
「お役に立てたなら何よりです。それじゃ」
「あのっ」