一夜限りと思ったワンコ系男子との正しい恋愛の始め方
「まさかこの時間に美晴さんとこんなところで出会えるとは思わなかった」
「私も。今日はどうしたの?」
「俺、営業なんで、外回りから帰ってきたところです」
「そうか。健斗とは別部署だったのね」

 営業と言われてうなずいてしまう。黙々とデスクワークをする姿より、外回りで色んな人に会っている陽平の姿の方が想像しやすい。美晴がひとり納得していると、また笑われた。

「お付き合いは順調なようで。よかったです」
「っ! なぜそんな判断を」
「いやー、だってごく自然にケンケンのこと健斗って呼び捨てにして、ついでに俺のことも陽平くんって、なんかめっちゃ馴染んでいるじゃないですか。仲いいんだなって」

 そういう陽平は健斗のことをケンケン呼びしている訳だが、それを指摘するのもなんだかムキになっているようで気恥ずかしい。

「仲はよくなったけど、お付き合いに関しては過渡期です」

 陽平から目を逸らし、素っ気なく言ってみる。

「健斗、駄目っすか?」

 その声が思ったよりも心配そうだったので、美晴はつい陽平を見返してしまった。

「あいつ、ものすごく真面目に美晴さんのこと考えていますよ」
「なんでそんな」
「だってほら、俺、毎週水曜日にコンビニ行くの付き合っていたし」
「毎週水曜日?」

 なぜ曜日を限定しているのか理解できずに、美晴が首をひねる。陽平は先に来たラーメンをすすりながら、うんとうなずいた。

「毎週水曜日にしか現れない『コンビニの君』に会いたさに 、俺達も毎週水曜日にだけあそこの公園前のコンビニに通っていたんですよ」
「それって」
「もちろん、美晴さんのことです」

 健斗との会話では出てこなかったその新事実に、美晴の動きが停止した。

「小籠包と炒飯のセット、お待たせしましたー」
「美晴さん、来ましたよ」

 言われてハッとして、蒸籠(せいろ)の蓋を開ける。湯気とともに小籠包があらわれて、美晴は反射的に笑顔になった。そのまま一気に食べたいところだが、ここで急くと口の中を火傷する。レンゲに小籠包を一つ置くと、冷ましながら話の続きを再開した。

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