一夜限りと思ったワンコ系男子との正しい恋愛の始め方
「陽平くん達、いつもあそこのコンビニを利用しているんじゃ無かったの?」
「あそこより会社の近くに別のコンビニありますから。たまたま気分変えてあそこに入った時に偶然美晴さんを見て、それからですよ」
「……てっきり、コンビニのおにぎりが大好きな二人組なのかと」
「それだけで毎回あんなテンション高くなんかならないです」
「そう、なんだ……」

 蒸籠の蒸気と初めて知る事実と、二つの熱にあてられて、顔がどんどんと火照ってゆく。そんな美晴の顔をまじまじと見つめ、陽平がポツリとつぶやいた。

「なんだ。ちゃんと好きなんだ」
「ええ、まあ……」

 初めて自ら口に出して肯定して、一気に照れくささが沸き起きる。

「その表情、画像撮ってケンケンに送っていいですか?」
「駄目!」

 陽平の口調が完全に面白がっている。美晴は目の前の男を軽く睨みつけながら、ようやく熱さが和らいだ小籠包を食べ始めた。

 皮を箸で少し破って汁を先にすする。確かに理恵の言うとおり少し甘めの味が口に広がり、食欲をより刺激する。汁を堪能したあとは、生姜の千切りを乗せて頬張った。

「これ、本当に美味しいね」
「でしょう? で、なんで過渡期なんですか?」

 小籠包にそろそろ話題を変えたい美晴の思惑には乗らず、にこやかに微笑みながら陽平が話を戻す。美晴はゆっくり丁寧に小籠包を味わうと、水を一口飲んでから渋々答えた。

「まだ、自分の気持ちを伝えていないので」
「それって、好きだってことを、ですか?」
「ええ、まあ」
「なんでまた」
「自覚したのがつい数日前なので、これからなんですっ」

 どこまで白状させられるのかと、半ば自棄になって美晴が言い切る。その勢いで陽平をまた睨みつけようとしたら、何故かうつむいて肩を震わせていた。

「あー、やべぇ。二人揃ってどんだけ」
「ちょっと、陽平くん」

 必死に笑いをこらえる陽平の態度に抗議すると、眼尻に涙をにじませた陽平が提案してきた。

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