一夜限りと思ったワンコ系男子との正しい恋愛の始め方
「ケンケン、火はついた?」

 理恵に聞かれ、健斗はグリルに目をやる。黒炭は隙間を空けながら柱のように何本も立たせて、その隙間にゆるくよじった新聞紙を突っ込んで火をつけた。こうすると、新聞紙が燃えているうちに炭に火が移っていく。燃焼しやすい、炭の効率良い立て方さえ知っていれば簡単に出来る火の起こし方だ。

「炭が燃えるまでもう少し待って」
「……ケンケンって?」

 当たり前のように流れる会話を止め、確認するように美晴が繰り返す。その疑問に答えるため、陽平がニコリと微笑んで言い切った。

「美晴さんいるのに理恵ちゃんが健斗って呼んじゃまずいでしょう」
「そんな」

 押し切られて、なぜか美晴がうろたえる。

「うん。そんなことより、乾杯しましょう!」
「乾杯ー!」

 最終的に理恵が仕切って陽平がそれに乗って、それぞれプラカップを手に持ち乾杯する。明るい日差しの下、冷えたビールが喉を通って身体に染みていった。

「気持ちいいねー」

 青空に向かってビールを掲げ、理恵が叫ぶ。

「ほんと、ビール美味しい」
「美晴さん、すっごいしみじみ言った」

 さっそく理恵に突っ込まれ、美晴がビクリとする。その様子を肴に、健斗はまたビールを一口飲んだ。

「えーっと、ここ最近お酒飲んでなかったんで、つい」

 ただの事実なのに、そわそわしながら説明するのでなんだか怪しい。これでは痛くない腹も探られてしまう。

 可愛いなぁ。

 そんなことを思いながら、またビールを飲んだ。

「おーいケンケン。見とれていないで、このグリルもういいんじゃね?」
「そうだな、そろそろ焼くか」
「あ、それじゃあおかわりのビールを取りにいくね。美晴さん、一緒に行きましょう!」

 そうして肉を焼くのを健斗と陽平に任せ、今度は理恵と美晴がドリンクコーナーへと向かう。


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