一夜限りと思ったワンコ系男子との正しい恋愛の始め方
「コンビニで一目惚れして、メシ誘って勢いで突っ走って、反省して仕切り直しが始まって。でもそこから、美晴さんのこと知れば知るほど好きになっていきました。昨日、久しぶりに美晴さんに会えてあらためて自分の気持ちを伝えようと思ったけれど、酒が入っちゃったんで……」
「あ……。昨日は、ごめんなさい」
「いや、良いんです。そういうんじゃないんです。ただ、俺も好きだって伝えたくて」

 そこで言葉を切ると、健斗が声のトーンを落としてそっと訊ねた。

「美晴さん俺のこと好きだって、本当に?」

 不安そうな、自信の無さそうな健斗の声。それはまるで捨てられる仔犬を連想させる。

 なんでこういう要所要所で、ワンコ属性を出してくるのかな。

 もはや腹立たしくなるくらい、美晴の心は健斗の言動に撃ち抜かれていた。自分の中で衝動が沸き起こり、美晴は顎を上げて目の前の男を見上げる。

「好きでなくちゃ、酔っていたってあんなことしない。それが分かったの。私もコンビニで健斗を見たときから好きだった!」

 それに気が付いたのは今さっきだけれど。そんな突っ込みを心の中でだけして、口をつぐむ。挑むように、睨み付けるように健斗を見つめていたら、彼の両手が中途半端に上がった。

「美晴さん、ぎゅっとしていい?」

 健斗の表情が、なにか衝動を抑えるように苦しそうになっている。それなのに、ぎゅっとしての言い方がなんだか可愛らしくて、また美晴の心が撃ち抜かれた。

「うん。ぎゅってして」

 そう返事した途端、強く抱きしめられた。ぎりぎり息が出来るくらいに加減され、身体全体で覆いかぶさるよう包まれ、美晴の首元に健斗の顔が埋められる。

「美晴さん……!」

 低くくぐもった声。美晴もゆっくりと腕を健斗の背中に回し、抱きしめ返す。

「健斗、好き」

< 92 / 97 >

この作品をシェア

pagetop