一夜限りと思ったワンコ系男子との正しい恋愛の始め方
 何度、言うのだろう。そう思いながらも、言いたい気持ちは止まらない。そんな美晴をまたぎゅっと抱きしめると、はぁ、と息を吐きだして健斗が顔を上げた。無言のまま、美晴を覗き込む。そしてお互いに目を逸らさず、ごく自然に唇が合わさった。途端に健斗の目が細まって、嬉しそうに微笑まれる。

「やっと、触れることが出来た」
「あのね」

 健斗の笑顔にほだされて、抱えていた思いをすべて伝えようと美晴は思う。

「健斗が公園で『指一本触れない』って宣言したとき、私、健斗の頭を撫でたくて仕方なかったの」
「え」
「それからずっと我慢している」

 そこまで白状すると、お伺いを立てるように首を傾げてみせる。健斗も何も言わず、美晴に近付けるように頭を下げた。それを受け、背中に回していた両手を健斗のこめかみにあて、頭を撫でるように髪を指で梳いていく。

「健斗に、ようやく触れることが出来た」

 見た目は硬そうなのに、触ると意外と柔らかい髪。その指通りの心地よさに、美晴は満足の笑みを浮かべた。

「だあもうっ」

 健斗のそんな叫び声と共に、突然抱き上げられる。え? と美晴が戸惑う間に縦抱きのまま数歩後ずさりして、ベッドに下ろされた。ころんと仰向けになった状態で健斗を目で追うと、手早くサッシが閉められる。さらにきっちりとロックを掛けると、勢いよく音を立ててカーテンが閉ざされた。遮光性ではないため朝の光は透けて差し込むが、とりあえずこの部屋だけ薄暗くはなる。

「美晴さん」

 健斗が呼び掛けて、ベッドに上がる。そのまま美晴に覆いかぶさるとまた唇を重ね、囁いた。

「俺は、もっと触れたい」

 真剣に美晴を見つめる目元が赤い。少しかすれた低い声は艶を含んでいる。健斗の色気にあてられて、ふるりと体が震える。

「私も、健斗に触れたい」

 その言葉を合図に、健斗が美晴の唇をついばむ。それを許すように美晴が口元を緩めると、すかさず健斗の舌が潜り込んできた。



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