恋のナンバー507〜一尉、私のハートを墜とさないで〜

「こっちが格納庫(ハンガー)で、あちらに見える建物が航空団司令部。その横にあるのが隊舎、隊員たちの住まいよ」

 小桃さんは手際よく、私たちを案内してくれる。
 
 百里基地は民間の空港と併設していて、滑走路の反対側には民間の空港ターミナルが建っていて、ターミナルの横には航空会社のマークをつけた旅客機が数機、翼を休めている。

 その数百メートル手前で、本物の戦闘機が訪問客のカメラに収まっているなんて、なんだか不思議な光景だった。

「桧山さんは、どちらに見えるんですか?」

 私は訊いてみた。

「一尉は、ハンガーの前で戦闘機の説明してるんじゃないかな」

「いちい?」

「あら、聞いてなかったの?」

 小桃さんは微笑んで、

「桧山一尉は、第3飛行隊のパイロットよ。ちなみに一尉って、昔で言う大尉のこと」

 その大尉が、偉いのかどうなのか分からない。

「簡単に言うなら、新人パイロットのまとめ役ね。百里の『オルカ』と言えば、空自の戦闘機乗りでは知らない人はいないわ」

「『オルカ』?」

TAC(タック)ネームよ。パイロット同士が空中でお互いを呼び合う、コールサインのこと」

 そんなことを話しながら歩いているうちに、ハンガーの前でマイクを持って来訪客に説明している、パイロットスーツに身を包んだ、背の高い人影が見えてきた。

「いたいた、桧山一尉よ」

 どこか嬉しそうな小桃さんに、萌音が訊いた。

「そんなにすごい人なんですか、桧山さんって?」

「競技会で表彰されるくらいにはね。戦技競技会では、襲撃してきた敵の戦闘機を返り討ちにしちゃうし、部隊同士の対抗訓練でも、あらかた一尉が優勝を(さら)っていくから、どこの部隊も第3飛行隊とは訓練したがらないって噂よ」

 私は小桃さんの言葉に、へえーと声を出しながら、目は背の高い桧山さんの姿を追っていた。
 
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