恋のナンバー507〜一尉、私のハートを墜とさないで〜
小一時間ほど並んで、ようやく私たちの番がまわって来た。
体験搭乗のために3機の戦闘機が並べてあって、それぞれに案内役のパイロットが付いている。
私は、桧山一尉が案内に付いている機体に振り分けられた。
事前に小桃さんが連絡しておいてくれたのか、桧山一尉は私が訪ねて来たのを知っていたようだった。
一尉は私の顔を見ると、小さく頷いた。
作業帽のバイザーに隠れて、表情はよくわからない。
私の前の人がコクピットから降りて、私の番になった。
コクピットの横には小さなタラップが掛けてあって、それを上るのだけど、予想以上に──高い、コクピットまで3メートルくらいある。
怖気付いた私に、低く落ち着いた声がした。
「よそ見をすると危ない。進む先だけ見ればいい」
桧山一尉がタラップに足を掛けて、こちらを見上げていた。
私はキュロットスカートだったけど、めちゃくちゃ恥ずかしくなって、慌ててコクピットに滑り込んだ。
コクピットに入れば入ったで──狭い。
それ以上に、シートが後ろに寝過ぎていて、座るというよりほとんど寝そべっている感じだった。
私は女子の中ではそんなに背の低い方じゃないけど、このコクピットに入ると、メーターパネルと左右の機器類に押し潰されそうで、前後左右がほとんど見えない。
仰向けになって空を見上げるしかない私に、桧山一尉が顔を近付けてきた。
「これがフライトコンピューター、これが火器管制コンピューター、右手にあるのがスティックだ」
何を言っているのかさっぱり分からないけど、ちょうど私の胸の上に桧山一尉の顔があるような感じで、私は顔から火が出そうだった。
「あ、あの……」
私は勇気を出して、訊いてみた。
「桧山さんは、いつもこれに乗って空を飛んでいるんですよね」
「ああ」
なんの感情も見せずに、当然のことのように答える桧山一尉が、何かとても不思議な生き物のような気がして、私は一尉の精悍な顔を、ただじっと見つめていた。