恋のナンバー507〜一尉、私のハートを墜とさないで〜

 体験搭乗を終えて、小桃さんの案内で基地の食堂でランチをいただいてから、私たちは午後のプログラムも見ていくことにした。
 あの窮屈なコクピットで桧山一尉がどのように機体を操るのか、見てみたくなった。

 それまでの時間、私たちは基地内のラウンジで、お茶をしながら話し込んでいた。

「ねえ、小桃さん」

 私は訊いてみた。

「小桃さんが私の立場だったら、どうしますか?」

 哲也の件だ。今は自然に距離が取れているけど、このままでいいんだろうか。

「そうねえ」

 小桃さんは、いたずらっぽく笑って、

「私なら、『私が欲しいのなら、覚悟はできているのでしょうね』くらい言うかな」

 大人の世界って、なんかスゴイ。

 真っ赤になって耳をそばだてている私たちに、小桃さんは、

「でも今の哲也くんじゃあ、はっきり言って『無い』わよね。まともな関係になれそうな気がしない」

 小桃さんはアイスコーヒーのストローを吸って、喉を潤してから、

「身体がどうとかいう以前に、たぶん今の哲也くんは、自分の想いがコントロールできなくなっているんだと思う」

「自分の想い、って……?」

「さくらちゃんと昔みたいに、仲良くなりたかったんでしょう。でもそれは、哲也くんの独り善がりな想いで、さくらちゃんは鬱陶しがっていた。一本通行の想いをぶつけられても、こちらは引くだけ。さくらちゃんはそんなふうに感じたから、哲也くんとの距離を取っていたんじゃないかな」
 
「……はい」

「人を愛するには、ときに自分を()めることも必要って彼が気付かないことには、この先もお互いに想いをぶつけ合うだけで、心も身体もボロボロになってしまうと思う」

 哲也に強引に奪われた、私のファーストキス。 
 痛くて、怖くて、泣きたいくらい悲しかったけど、あれも哲也のSOSだったのかもしれないと思ったら、胸の奥がちくりとした。

 考え込む様子の私を見ながら、小桃さんは言葉を足した。

「哲也くんが反省──というか、いろいろ怖くなって、このまま何も起きずに終了、なんてパターンもあるけどね」
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