恋のナンバー507〜一尉、私のハートを墜とさないで〜
それから私たちは、午後の展示飛行を見学した。
領空侵犯に対する緊急発進を模した展示だそうで、桧山一尉だけではなくて、小桃さんも地上要員として参加していていた。
ブザーが鳴って、桧山一尉ともう一人のパイロットが機体に駆け寄る。二人がコクピットに収まると同時に、大気を切り裂くようなエンジン音が響き渡った。
透明なコクピットの覆いが閉じて、ヘルメットを被った桧山一尉は、機体と一つになったようだった。
誘導役の小桃さんが合図を送るのと同時に、エンジンを始動させた2機の戦闘機が少し間隔をおいて動き出して、アスファルトの道を滑走路に向けて移動して行く。
桧山一尉の機体に書かれた『507』の黒い番号が、エンジンの排熱で砂漠の陽炎のように揺れて見えた。
滑走路の端に着いた2機が斜めに並んで、次第にエンジンの唸りを高めていく。
そして次の瞬間、轟音とともにオレンジの炎を煌めかせ、矢のように滑走路を走り出した。
オレンジの炎を、不死鳥の尾のように長く曳きながら、桧山一尉たちが離陸していく。
その一部始終を、大勢の観客たちと一緒に、私と萌音は瞬きも忘れて見つめていた。
地を蹴って舞い上がった群青色の戦闘機は、青い空を駆け上がるように急上昇して、あっという間に見えなくなった──。