恋のナンバー507〜一尉、私のハートを墜とさないで〜
「どういうこと?」
「桧山さん、ひと回りも歳が離れているんでしょう? まず話が合わないし、向こうがさくらを対等に見てくれないと思う」
小桃さんの話から、私たちは桧山一尉が28歳だと知った。私たちは17歳。
「それに、桧山さんは元カノのことがあって、告白されても全てお断りしてるって。
小桃さんみたいな綺麗な人でも見守るだけにしてるのに、端から勝負にならないよ、さくら」
「……」
「人を好きになるなんて理屈じゃないし、誰を好きになるかはさくらの自由だけど、私はさくらが苦しむところ、見たくない」
カーブに差し掛かって、電車は車体を傾けながら、軋みの音をあげた。
「ありがとう、萌音」
私は言った。
「でも私、一尉といっぱいお話したい。あの人が空から何を見ているのか知りたい。地上で何を想っているのか、訊いてみたいの」
「さくら……」
「一尉はバスケ部のエースだったんでしょう? 接点がないわけじゃないよ。私、一尉にいろいろ教えてもらいたい」
どこからそんな言葉が出てくるのか、自分でも分からないくらい、胸の奥から想いが込み上げてくる。
自覚してしまった。
私、桧山一尉のことが、好きだ。
身体が覚えているんだ。
あの日、私を優しく抱きしめてくれた、一尉の腕の逞しさを。
ごつごつして硬いけど、広くて暖かい、一尉の背中を。
優しく響く、一尉の声を……。
萌音はしばらく、そんな私のことを見つめていたけど、やがてこう言った。
「わかった、さくら。もう止めない。でも気をつけてね。哲也がこのこと知ったら、大変なことになるかもしれないから」
車内のアナウンスが私たちの駅が近いことを告げて、電車はブレーキを踏みながらスピードを緩めていった。