恋のナンバー507〜一尉、私のハートを墜とさないで〜
出会い
放課後のチャイムが鳴ってすぐ、萌音が声をかけてきた。
「さくら、帰ろうよ」
「ん……」
私は頷くと、鞄を手に取って席を立った。
教室の端で哲也が私のことを見ていたみたいだったけど、敢えて無視した。
校舎の外はもう日が暮れかかっていて、私と萌音は夕陽の色に染まりながら、下校する生徒たちに混じって、駅に向かう坂道を降っていった。
グラウンドの方から、ソフト部の女子たちがお互いにかけ合う声が、風に乗って流れてくる。
「──さくら、気になるの?」
「ううん」
生返事をしたけど、気持ちはグラウンドの先の、体育館に向いたままだった。
萌音はそんな私をのぞき込むようにして、
「あんまり考えすぎると、シワになるよ」
なんて、明るく笑いかけてくれる。
「言ってくれるね、こんな美少女つかまえて」
「冗談言ってられるうちは、大丈夫だね」
え、冗談?
「ちょっと萌音、待ちなさいよ」
萌音はケラケラ笑いながら、緩い坂道を駆け下りていく。
このまま坂道を下りきって駅前商店街まで出て、精肉店のメンチカツを買い食いして帰るのも悪くない。
眩しさを感じて目を細めると、右手のガードレールの先に広がる山の端に、夕陽が紅く燃えながら暮れ落ちるところだった。