恋のナンバー507〜一尉、私のハートを墜とさないで〜
自宅に戻ってシャワーを浴びて、鏡の前で髪にドライヤーを当てながら、私は溜息をついた。
萌音にはああ言ったけど、一尉と距離を詰める方法を、私が知っているわけじゃない。
小桃さんに相談しようにも、小桃さんの桧山一尉への想いを考えたら、いくらなんでも厚かましすぎる。
百里基地は私の住む街から20キロ以上は離れていて、頻繁に通うこともできない。
そこまで考えて、ふと気が付いた。
なんであの日、桧山一尉は神社に通りがかったんだろう。
小桃さんによると、一般隊員以外の幹部自衛官は、基地の外で宿舎住まいをしたり、自分でアパートを借りて暮すこともあるそうだ。
小桃さん自身も、私の街の隣町でアパートを借りて住んでいると言っていた。
もしかしたら桧山一尉は、私の家の近所で、一人暮らしをしているんじゃないだろうか……?
思わず電話帳を探しかけたけど、馬鹿馬鹿しさに気付いて止めた。
一尉が携帯しか持っていなければ意味がないし、そうでなくても、そんなストーカー紛いの真似なんてできない。
ハハハ、と、自分を笑いそうになって、涙が溢れた。
忘れてた。
人を好きになるって、こんなに切なくて辛いものだったんだ。
想いが募るほど、一人が辛い。
想えば想うほど、相手がこちらを見ていない現実が、胸に突き刺さる。
きっと今も、一尉は私と同じ空の下で、私のことに気付かないまま、静かに呼吸している。
辛い、苦しい。
でも──。
私はもう一度お風呂場に駆け込むと、頭からシャワーを浴びた。
余計な涙があるなら、シャワーで全部洗い流す。こんなにウジウジしてたんじゃ、届く想いも届かない。
こんなの、私らしくない。
身体をもう一度拭いて鏡の前に戻って、無理に笑顔を作って見せた。
決めた。
明日からあの時間、私もあの辺りをランニングしよう。
休部中の自主トレにもなる。とにかく身体を動かそう。
自分らしい解決方って、きっとこれだから。
そんなふうに考え始めたら、なんだか明日にでも一尉に会えそうな気がしてきた。
今は自然に笑顔になっている、鏡の中の自分に、私は自分でエールを送った。
頑張れ、さくら──。