恋のナンバー507〜一尉、私のハートを墜とさないで〜
次の日から私は、夜のランニングを始めた。準備運動や途中のストレッチも含めて、全部で1時間くらい。無理のないペースで、距離を稼ぐように走った。
夜の街並みを走りながら、桧山一尉の姿を探し続けた。
一尉は背の高い人だから、シルエットでもすぐ分かる。ピッチを整え、しっかり前を見ながら、私は走った。
ありふれた地方都市にすぎない私の街も、走れば広い。
あの日、一尉の姿が姿が見えなくなった曲がり角をスタート地点に、私は夜の街を走り続けた。
この街を走っていて、一尉に出会う可能性がどのくらいあるのか知らない。
どこに住んでいるのかも分からない、生活のパターンも知らない。
でもなぜか、こうして走り続けていれば、一尉に会える予感がしていた。
そして走り始めて10日ほど経った、空気がしっとりと湿った夜のことだった。
その日は、日中から曇り空だった。
ニュースでは夜半の降水確率は30%となっていた。
雨が降り出したら早めに切り上げよう、そう考えながら、私はパステルピンクのトレーニングウェアに着替えて、夜の街を駆け出した。
その夜は、街の東側を大きくまわるルートを取った。
途中に小さな公園があって、そこで水分補給と、遊具を使ったストレッチもできる。
でも、走り始めて15 分もしないうちに、頬に水滴が弾けた。
はっとして夜空を見上げたら、次の瞬間には大粒の雨が、バケツをひっくり返したように降ってきた。
私は心の中でニュース番組の予報板を蹴飛ばしながら、とにかく中間点の公園を目指して走った。
あそこには雨宿りできるあずま屋もある。
なんとか目的の公園に辿り着いたころには、私は頭のてっぺんから足の先まで、全身ずぶ濡れになっていた。