恋のナンバー507〜一尉、私のハートを墜とさないで〜
降りしきる雨のなか、夜の公園のあずま屋に駆け込んで、ようやく一息ついた。
雨に閉ざされた公園には、私の他に誰も居ない。
点々と灯る蛍光灯の明かりが、雨に煙りながら薄ぼんやりと辺りを照らしている。
しばらくは雨脚も収まりそうにない。
急に悪寒を覚えて、身をすくめた。
私のトレーニングウェアは雨水が滴るほど濡れそぼっていて、インナーまでぐっしょり濡れている。
身体を止めた途端、全身から体温が奪われるようだった。
雨は一層激しく降ってくる。
人気のない公園を避けるのか、晴れの日なら幾人かは行き違う人の姿もなくて、ときおり公園の外を通り過ぎる車のヘッドライトが、一瞬闇を払って、また闇に沈んでいく。
あずま屋の屋根を叩く雨音だけが、辺りを満たしていた。
途方に暮れて、公園の入口を眺めたときだった。
背の高い人影が、入口から入って来た。
トレーニングウェアの上に防水のウィンドブレーカーを羽織っていて、その姿でこの雨の中を、その人はランニングしてきたのだった。
顔はウィンドブレーカーのフードに隠れて分からない。でも一際目立つ、背の高い人影。
桧山一尉──!!
声を出そうとして、言葉が喉につかえて出てこない。
茫然と立ち尽くす私に、桧山一尉は変わらないピッチで地を蹴りながら近付いてくる。
そしてあずま屋に入って立ち止まり、頭のフードを上げた。
精悍な、桧山一尉の顔。
きっと会えると信じていた。
桧山一尉は全身びしょ濡れの私の姿を、上から下まで眺めると、いつもの落ち着いた声で、言った。
「大丈夫か、さくら?」
私は次の瞬間、一尉の胸に飛び込んで、すがりつくようにして泣いていた。