恋のナンバー507〜一尉、私のハートを墜とさないで〜
思い出
体育館を出ると、辺りはもうすっかり日が暮れていた。
「車で送っていこう」
桧山一尉はそう言って、私たちを体育館裏の駐車場に連れていこうとしたのだけど……。
裏の駐車場に通じる通用口の先に、黒い人影が立っていた。
「哲也……」
「なんだよさくら、こんなオッサンと付き合ってんのかよ」
哲也の声は、昏くて低かった。
「俺をフっておいて、こんなオッサンとくっついてんのかよ」
「哲也。お願いだから、桧山さんに変なこと言わないで」
私の声に、萌音も言葉を重ねた。
「フるも何も、あんたたち付き合ってたわけでもなんでもないでしょ。なに勘違いしてんの?」
「うるせえっ、黙れ!!」
哲也が怒鳴った。
少しやんちゃだけど、粗暴とはほど遠い幼なじみだったのに。
「なんだよ、白川までコイツの味方して。 俺のこと、バカにしやがって……!」
急に哲也の声が裏返った。
ヒューズが飛んだ、そんな雰囲気だった。
「そうかよ。お前ら二人、このオッサンに抱かれたのかよ。ハダカになって、犬みたいにキャンキャン鳴いてたのかよ!」
「哲也──!!」
言葉を無くした私たちの横で、低く落ち着いた声がした。
「さくらを奪われて、そんなに悔しいか」
桧山一尉が、私たちを護るように一歩前に出た。
「なん、だと……?!」
「さくらが俺に抱かれたとして、お前はさくらを詰るだけなのか。惚れた女に、恨み言をぶつけることしかできないのか」
「桧山……さん……」
胸の奥が、じんと熱くなる。
「ふざけるなっ、バカにするなっ!」
叫ぶ哲也に、桧山一尉はどこまでも冷静だった。
「ふざけてなどいない、相手を間違えるなと言っている」
そして哲也の目を見据えるように、言った。
「お前の怒りも悔しさも、ぶつける相手は俺だろう。俺が許せないのなら、ためらわずにかかってこい」